授業書案「イオンの世界」
「授業書案」としているのは、1回しか授業にかけていないという理由もありますが、後記のように「授業書を作るのが原理的に困難」というのが主要な理由です。完成度C以下、授業のしやすさもC以下と考えて下さい。
つまり中学では酒井式行事や無競争集団主義で1年から教育され、理科授業の大部分が仮説実験授業になっている場合・・・・生徒が理論で考える傾向や積極的にわかろうとする傾向が抜群に強い・・・でも現状ではかなり落ちこぼれがでますから、課外部活動でしか採用できません。 高校なら採用できる可能性はありますが…。
そんな程度でも、核心的部分は出来、改良の道筋がはっきりしていると思うので、試作品として出します。
授業書つくりが特別困難である理由は次の通りです。
1. 1つの現象に多数の理論が関係する。
だから指導要領式授業では理論が実験ぬきで多数一気呵成に詰め込まれ、大変苦しい授業になっている。 原子核と電子、八隅説とイオン結合・共有結合・配位結合、構造式など…これら1つ1つは単純な理屈で理解容易ですが、一気呵成に詰め込まれると全部合わせて複雑な理論となります。 その上化学反応の結果は大多数が丸暗記ですから、理論・結果を覚えるつらさに多数生徒が落ちこぼれる。
仮説実験授業のように理論的に実験結果を予測させる授業では、実験結果の解釈を押し付ける指導要領式授業より多数の理論が必要で、短期間で教えようとすれば「授業方式としては良くても、あまりにも多数の理論に押しつぶされ」苦しい授業になりやすい。
対策としては、「水と油」で構造式を分離して教えたように、1つ1つの理論をできるだけ分離して素過程として教え、実験を組み合わせて1つ1つの理論が直観に近くなるようにし、最後に一般の複雑な組み合わせに進むという数学水道方式と同じ方法しかない。 また中原式授業(→理科授業論)に似せた親切授業書を採用する。 極力枝葉をなくし、コンパクトな教材とする…枝葉が必要な場合は科学読み物形式にして押し付けてしまう…しかないです。
基本的な事柄でも標準的な構成の授業書…1つか2つの理論に多数の例でゆさぶりをかけ、今までの考え方ではダメですヨという事を示す…という構成では時間がかかりすぎるから、仮説実験授業に似せた科学読み物形式を採用する。
形式的には押し付けですが「読者認識の発展の順に教材を配置」「その1つ1つの段階で、今までの考え方ではうまくゆかない例を入れる」「例は一つ一つの概念、考え方ができるだけ直観になるよう例を配置」という構成で、「それまでの生徒の考え方を無視し、頭の中がゼロという仮想人間すなわち新しくフォーマットした記憶装置のようなロボット的人間に、直接、体系化された知識をまとめて押し込むつもりで教材を編成」という指導要領式のテキストとは構成が異なります。ただし授業は1回で、この通りの構成になっているかどうか怪しい部分も少なくない。
2. 理論の分離が難しい事が少なくない。イオンの授業で一番問題になるのは次の場合です。
イオン化合物の水溶性を理論的に考えると
「+・−イオンの間の静電気力が強いと結晶から1つ1つのイオンが分離しにくく、水分子が衝突してもイオンがバラバラになりにくい…ほとんど水に溶けない。」
例・ +1・−1のイオンから出来ている塩化ナトリウムは水に溶けるが、+2・−2のイオンから出来ている酸化マグネシウムは水にほとんど溶けないという効果、つまり陽イオンの作る電場が弱いほうが水に溶けやすい
という効果と
「イオンの作る電場が強いほど、そのイオンは有極性溶媒である水との親和性が高く、イオン化合物が水に溶けやすくなる」
例 硫酸バリウムは水にほとんど溶けないが、それより静電気力が強いはずの硫酸アルミニウム(Alイオンは+3だから)や硫酸マグネシウム(MgイオンはBaイオンより小さく+−イオンの距離が短いから)は良く溶ける。 AlイオンやMgイオンは強い電場を作る(+3とか+2でも小さいイオンだから)ので、水分子をまわりに引きつけてしまい、相手のマイナスイオンとの静電気力が弱くなって、水分子に跳ね飛ばされる。
という効果、
つまり陽イオンの作る電場が強いほうが水に溶けやすいという効果があり、この2つの反対方向効果の相対的大きさは場合によって異なる。
対策としては1950年代前半に槌田龍太郎(阪大教授・無機化学)氏が雑誌「化学」連載記事で主張した、「静電気力を中心として扱い、親和性のほうははっきりした水和錯イオンをつくる場合だけ考えるという理論レベルを化学教育で設定すべきだ」という方法しかあり得ないです。
つまりイオンと水分子の親和性が大変大きく錯イオンを作るときだけ親和性を扱い、そうでない時は無視して微積分の苦手な学生・生徒にはつらい熱力学や量子力学を回避する。 100対1とか10対1の効果でなく、1対1に近い効果を切り捨てる大胆な近似ですが、普通に扱うイオンでは例外が少ないから、定量的な測定をしなければそれで間に合います。
単純な間違いは困るが、近似的に正しいなら、一定の教育段階でそれを教えても良いと考えられます。
同様な例を示せば「ものは分子からできている」という教育段階があります。 イオン化合物や巨大分子が多数あっても、その段階は近似的に正しいのだから、それを教え、イオン化合物などは例外扱いすればよいというのと同じです。 科学の研究をすれば「絶対的真理が直接明らかになる」というものではなく、「現在の近似段階からより精度の高い近似段階に進む」のであり、科学の最先端の研究結果でも中学レベルや高校レベル科学より近似の程度が高いだけですから教育でも「近似の程度を段階的に上げる」方法で差し支えないはずです。
槌田氏はこの定性的説明に数字を持ち込んでいる(クーロン力の計算)が近似の程度が高いとはいえない定性的説明に数字を持ち込むのには抵抗を感ずるのでその点だけは採用せず、すべて直観的な判断としました。
3. 量子力学を避ける以上、イオン結合と共有結合、分子とイオン化合物・巨大分子を峻別する。「極性溶媒」といった量子力学的概念を絶対必要な場合以外使わないし、使う場合は例外か注釈とする。 1つの例のために段違いに高度な一般理論を導入すると理論詰め込みで苦しい授業になる。
4. 水溶性を「良く溶ける」「ほとんど溶けない」と定性的に扱い、硫酸カルシウム(溶解度0.209g/100g水20度)や炭酸リチウム(溶解度0.72g/100g水100度)は「ほとんど溶けない」とする。 また融点は高い、低いという直観的な分類をする。 溶ける量や融点の数字そのものを問題にしたら熱力学・量子力学が必要になってしまう。中間的な場合は直観的説明を与えるか「例外になる理由は大学で学んでください」とする。
5. 原子模型、電子、イオンとイオン結合、共有結合・・・・と多数の化学反応暗記を一気に導入するのは苦しいので、「もしも自由電子が見えたなら」も先にやり、その先で次のような中間的レベルの理論を経て、そのレベルで考える化学反応に親しんでから八隅説に入る。
「金属は自由電子とイオンからできているという単純化・近似モデルを採用し、酸素・硫黄・塩素は自由電子が大好きで金属をさびさせるという理論段階」 これで電気分解や若干の化学反応を扱いその段階に生徒が進んでから八隅説に入りそれまでの現象の再解釈をする。
6.. 八隅説に進んだあと、典型元素の陽イオンは稀ガス型構造と考える事にし、他の構造の陽イオンは例外扱いする。 例えば鉛は典型元素であるが、+4でなく+2のイオン…当然希ガス型でない例外イオンとなる。
7. 遷移元素のイオンは一括して類似構造と看做す…大変配位結合を作りやすく、そのため水中では錯イオンになりやすく、陰イオン次第では巨大分子をつくりやすい…という程度にする。
これでも理論的レベルが高すぎると感じられるかも知れませんが…5社のうち3社の中学教科書(大日本と教図以外)を作成した方々のレベルを上回り彼らの間違い…つまり一部だけ現代の大学教科書を真似て極力正確にしようとし、他は1920年代までのレベルのまま、ひどく不正確なままで理論的統一のない教科書になっている…がはっきりするレベルですが、「中学2年生が授業中弾圧なしに授業終了まで一人も騒がず」という授業までは行っています。 改良が進めば、中学一般生徒相手でもそのレベルにほとんど落ちこぼれなく達する可能性はあると思っています。
イオンの世界
自由電子とさび
金属はマイナスの自由電子とプラスの金属イオンから出来ていると考えます。 鉄は自由電子と鉄のイオン、銅は自由電子と銅のイオン、マグネシウムは自由電子とマグネシウムのイオンからできていると考えます。
金属は電気を伝えますが、その時、電池のプラス側は電子を静電気力で吸い取り、電池のマイナス側は電子を追っ払います。
―――――絵は単純ですからかいて下さい。筆者はその能力が最低級。中学時代の通信簿は「2」。 実際の授業ではここで金属が曲げてもこわれない理由の説明。 電子がすばやく動き、陽イオンをつなぐという説明。
電気掃除機は片方から空気つまりたくさんの空気分子を吸いこみ、片方から空気分子を吹き出します。 空気を吸い込むついでにゴミやアリやハエも吸い込むから掃除機になる。
電池とか電源装置というものは、この電気掃除機に似ていて、プラスのほうで多数の電子を吸いこみ、マイナスから多数の電子を吹き出します。 つまりプラス側では静電気力で電子を吸い込み、マイナス側では静電気力で電子を追っ払う。
質問 金属がさびると自由電子はどうなるのでしょうか。 酸化銅に自由電子はあるのでしょうか。 酸化銅は電気を伝えますか? 実験確認。
質問 酸素があると鉄、マグネシウムなど多数の金属がさびて、酸化鉄、酸化マグネシウムなどになります。 鉄やマグネシウムの酸化物は電気を伝えますか?
質問 酸素は自由電子が大好きで、金属の自由電子を取ってしまう。 そのほかにも自由電子の好きな物質があるのを知っていますか?
実験 では新しい(ほとんどさびていない)銅板に硫黄をのせ、軽くこすってみましょう。 色はどうなりましたか?
この黒い物質は硫黄の黄色プラス銅の赤ではできない。 硫黄が銅の自由電子を取ってしまい、硫化銅という黒い物質ができたのです。
自由電子が大好きで、金属から自由電子を取る物質に、酸素のほか、硫黄、塩素があります。 これらでも金属の多くはさびます。
銀は酸素と仲が悪いので、酸素のせいでさびる事はありませんが、硫黄のせいで少しづつさびます。 普通の空気に硫黄はないが、卵やネギ、タマネギ、ニンニク、ニラなどから硫黄が発生します。 銀の匙がさびないようにするにはポリエチレンの袋に入れるかポリエチレンのラップで包むと良い。
銅と銅イオン
質問と生徒実験 電気を良く伝えるかどうかを、電池とミリアンペア電流計で測ることにします。食塩は電気を良く伝えるでしょうか。 実験装置の図省略。 豆電球を用いない理由はこの実験が後の生徒実験の素過程になるから。
質問と生徒実験 水は電気をよく伝えるでしょうか。 実験。
質問と生徒実験 食塩を水に溶かしたら電気をよく伝えるでしょうか。
そのように水に溶かすと電気をよく伝えるものが他にもあるかどうか、しらべましょう。 アルコール、塩化銅、砂糖
食塩や塩化銅は自由電子がないから、電気を伝えません。しかし水に溶かしたものは電気を良く伝える。 ぬれた手で電気に触ると危険なのは、人間は汗をかくので、水がすぐ食塩水に変わって電気をよく伝えるようになるからです。
ではどうして電気が伝わるのでしょうか。 銅や鉄、アルミニウムなどは自由電子という電気を持つ粒が動いて電気を伝えました。
食塩や塩化銅の水溶液でも、電気が伝わるのですから、電気を持つ粒が動くのですが、それは自由電子でない。 自由電子があるのは金属(と炭素など半導体)だけです。 ですからイオンのほうが水中に出て動いたのではないでしょうか。
塩化銅の電気分解
生徒実験
では銅のイオンが動いたのかどうか確かめる実験をしましょう。
プラスの銅イオンが動くとしたら水中をマイナス極のほうに動くはずです。マイナス極は電子の出るところですから、動いた銅イオンと電子が一緒になり、銅金属になるはずですが、実際はどうでしょうか。
教師実験では生徒ににおいをかがせる事が困難。
電気分解実験で普通使われるH字タイプガラス器具は扱いが一般中学生には難しいので、生徒実験の場合は小さい水槽に電極棒が2つつけてあり、ミニ試験管をさかさまにして電極にかぶせるという市販の器具を使う。 教材屋がよく知っている。
実験結果がでたらすぐ電気を切ってください。 まずマイナス極を抜いて下さい。
質問 銅の金属がマイナス極にでていますか?
理屈どおりです。 マイナス極で水中からきた銅のイオンと電源装置からきた電子がぶつかり、金属の銅になりました。
――――絵は容易ですからかいて下さい。
質問 ではプラス極を抜いて、匂いをかいで下さい。 悪い匂いですから、そってかぐようにします。 何の匂いかわかりますか。 わからなかったら教卓にある「塩素系漂白剤」を試験管に少しとり水でうすめたものと比べて下さい。
プラス極には塩素ができました。 塩素は気体ですが水によく溶けるので泡がでませんが、臭いでわかる。 プラス極に集まるのだから、塩素はマイナスのイオンになって水に溶けていると考えられます。 つまり塩化銅はプラスの銅イオンとマイナスの塩素のイオンからできている。 そして水中にはプラスの銅のイオンとマイナスの塩素のイオンが溶けていて、両方が水中を泳いでいる。
実際の授業では教師実験でH字型器具を使い黄色い塩素ガスを集めるところまでやったが、危険な実験なのでお薦めできないです。
でも塩化銅は青緑色で赤っぽい銅のいろと違いますが、本当に銅のイオンは青緑色なのでしょうか。
教師実験
銅板を塩酸に入れます。
塩酸に入れただけでは銅の自由電子がそのままですから、銅は赤っぽい色のままです。 さび、つまり酸化銅が塩酸に溶けてキレイな色になるだけです。
酸素を使って銅の自由電子を取ってしまう事にします。 空気の中の酸素でも長いことほっておけば、少しづつ自由電子を取りますが、1時間ではその実験が終わらない。
ここでは、中1のとき、酸素を発生させるのに使った過酸化水素を加えます。すぐ酸素が発生して激しく泡がでます。そしてその酸素が銅の自由電子をどんどん取ってしまいますから見ていて下さい。 銅の自由電子が酸素に取られてしまい、銅は銅のイオンに変わるはずです。
塩素水を用いたほうがわかりよいと思いますが、ビーカーでの実験ではあの臭気と毒性が問題なので過酸化水素水を使いました。濃塩酸と濃い過酸化水素水そのままでは反応が速過ぎて危険がありますから両方数倍に薄めてください。気温によって速さが違うから予備実験をします。 反応速度が(速すぎて危険でなく)遅すぎて1時間授業で困ったりしない程度。
塩化銅の水溶液と同じ色になりました。
銅イオンの色は青緑とします。これだと塩化銅の緑色と硫酸銅の青の違いを生徒があまり気にしないからです。 銅のイオンは水分子が多いと緑(水分子が2つ配位)、もっと多いと青(水分子が4つ配位)になる。 塩化物イオンより硫酸イオンは大型ですから、水が沢山銅イオンのまわりに入れるのですが、この段階では説明できない。
また教科書のように反応式をすぐ扱うと、電気分解と反応式の書き方という2つの理屈を同時に教えるので生徒が苦しくなる。
マイナスのイオン
塩化銅の銅は自由電子を取られてプラスイオンになっていますが、塩素のイオンはその電子を捕って(電子はマイナスですから)マイナスイオンになっています。 塩素や酸素、硫黄などは金属の自由電子を欲しがり、自分はマイナスイオンになろうとします。 塩化銅や塩化鉄の塩素はマイナスイオン、酸化マグネシウムの酸素はマイナスイオン、硫化ナトリウムの硫黄もマイナスイオンです。
ただし酸化銅や酸化アルミニウム、硫化銅、硫化鉄などにはイオンがなく、これらは巨大分子です。 塩化アルミニウムは普通の分子(アヴォガドロ分子)です。 ですから生徒からこれらの化合物についての質問がでたら、あとから勉強すると答えて下さい。 イオン化合物、アヴォガドロ分子、巨大分子をある程度見分ける方法があとで登場します。1つや2つの理論だけでは、例外のように見える物質や現象(実際には他理論も関係)が多数でてくるのが化学のつらいところです。
塩酸の電気分解
昔から使われたH字型の装置は生徒の失敗が多いので前記の装置を使い、教師だけH字型の装置。薄い塩酸を使うから、傷がなければ危険はない。 安全対策として炭酸水素ナトリウム溶液をビーカーに入れて生徒に配布する。
教師実験 炭素電極をつかって塩酸が電気を通す事を確かめます。
電流が流れる事がわかったらすぐ実験をやめてください。
塩酸は水素と塩素の化合したものですが、塩化銅と同じく塩素がマイナスイオンCl−になり、水素がプラスのイオンH+になっているから、これらのイオンが動いて電気を伝えます。 塩酸はふつうHClと書きますが実際にはH+Cl−です。
塩化水素は分子で水に溶かすとイオンになるがこの段階での説明はしない。
質問 これから生徒実験をしますが、長い事電流を流したら、プラス極には
どちらのイオンが集まりますか?
マイナス極にはどちらのイオンが集まりますか?
するとマイナス極からでるものは気体ですか? 固体ですか?
電源装置と前記電気分解装置の電極を片方使わず炭素棒を突っ込んだもの(絵をかいて下さい)、ビーカーに入れた先生が入れた少量の濃塩酸をいれた試験管を教卓から持っていって下さい。
炭素棒は塩素におかされないから使う また塩酸が薄すぎると実験に時間がかかりすぎるので要予備実験。
濃い塩酸は危険ですから手についた場合はすぐ洗います。 服についた場合は炭酸水素ナトリウム水溶液ビーカー入りですぐ中和して下さい。 机にこぼした場合もこれで中和します。 うすい塩酸はさわっても傷がなければ絶対安全です。
まず電気分解装置に水を入れます。 水は立っている棒のところまで入れて下さい。 次に気体を集めるために、ミニ試験管を1つだけ水で一杯にし、立っている棒のところで逆さに立てて下さい。 下に出ている棒をリード線で電源装置のマイナス極につなぎます。
炭素棒を電源装置のプラス極につなぎます。 最後に塩酸を入れます。 ではスイッチを入れて下さい。 やはり気体が出ています。 ミニ試験管を少し持ち上げると速くなる。 試験管のガラスの壁がイオンの動くのを妨害しているので、持ち上げると速くなるのです。
集まったら手を入れて水素を燃やします。 その実験は難しいので、注意を聞いたあと、先生のやるのを見てからやります。
塩酸は薄くなっていますから、手をつっこんでも水で洗えば安全です。気になる人は先生の机の炭酸水素ナトリウム溶液で中和して下さい。
たいていの人は右利きですから、右手の指を使ってミニ試験管にふたをし、火をつける事になります。 そうするとマッチをするとき、右手が使えない。 ですから他の人がマッチをすって下さい。 ここでは理科係の人にすってもらいます。 そのマッチを試験管を持っている人に渡しますが、そのときはしを持つのでなく、真ん中のほうを持って渡し、試験管を持っている人が端をもてるようにします。 試験管を持っている人マッチを左手にもらったら、ふたになっている指を離しサッとマッチを出す。 燃えました。
怖がってゆっくりやると、水素は逃げてしまい実験が失敗します。
炭素棒のにおいをかいで下さい。 塩素のにおいがします。
理科係りに手伝わせ教師が水素を燃やす模範実験をしてから、生徒に実験させる。 またどうしても水素の入った試験管を持ち替えたい場合は試験管をさかさまにして持ちかえるように注意。
やはりプラス極のほうは塩素の匂いがします。 塩酸はプラスの水素イオンとマイナスの塩素のイオンから出来ていて、この2つのイオンが水中をおよぎまわっています。 水素のイオン(プラス)がマイナス極の表面で電源装置を追い出されやって来た電子と出会うとくっついて水素原子になりますが、水素原子は手があまりますから2つで水素分子になります。
ここで構造式を分離した効果がでる。分子模型一辺倒では実体的直観的な理解が難しい。 またイオンと電子の出会いの絵を描いて下さい。
H+ + 電子 = H
H+ + 電子 = H H2つでH2だから
全体としては 2H+ + 2電子 = H2 となります。
ではプラス極のほうはどうなっているのでしょう。
塩素のイオン(塩化物イオンという)は塩素原子が電子を捕ったものです。塩素のイオンはマイナスだからプラス極に引かれますが、水中を動いてプラス極にぶつかると、プラス極は静電気力で塩素のイオンから余計な電子を奪い取ってしまいます。 ですからプラス極にぶつかると、塩化物イオンは塩素になります。
その塩素原子は手が1本であり、2つくっついて塩素分子になります。
マイナスイオンから電子を奪い取るだけの静電気力が電気分解には必要だから、あまり電圧が低いと分解がおきない事になります。
手による結合と静電気による結合
塩素は炭素と結びつく時は手が一本で分子をつくります。 ですから四つの塩素原子と1つの炭素原子が結びついて四塩化炭素という分子が出来る。 しかしマイナスイオンになって静電気力で銅イオンや鉄イオン、マグネシウムイオン、ナトリウムイオン、水素イオンなどと結びつく場合もあります。
酸とアルカリ
酸には塩酸、硫酸、酢酸、酒石酸、クエン酸などがあります。
生徒実験 先生がこれから配る小さいビーカーにあるうすい酢酸をなめてみましょう。 絶対安全ですから、なめてみましょう。 匂いは? 何の匂いですか?
酢酸は酢の中にある酸です。
生徒実験 先生の用意した試験管にあるうすい酒石酸をなめてみましょう。 もともとブドウにあったもので絶対安全ですから、なめてみましょう。
酒石酸はもともとブドウの中にある酸ですが、スッキリした良い味だというのでジュース類に加えています。
生徒実験 濃い塩酸は危険ですが、ごく薄い塩酸は無害です。塩酸も酸っぱい味がすると思いますか? 先生がまずなめて見ますから安心してなめてみて下さい。
(希塩酸を7-20倍程度にうすめます)。
すっぱいですが、塩辛いような味もあります。 3つの酸には酸っぱいという味が共通ですが、これは水素イオンくH+の味です。
塩酸 H+ + Cl−
酢酸 H+ + CH3COO−
酒石酸 H+ +HCOO(CHOH)2COO−
( 酢酸と酒石酸では酸素の1つが電子を捕りマイナスになっていると思って下さい。)
塩酸は水素イオンと塩素のイオン(塩化物イオン)からできていますが、すっぱいのは水素イオン、塩辛いのは塩素のイオンの味です。 酢酸は水素イオンと酢酸イオン、酒石酸は水素イオンと酒石酸イオンからできていますから、酸っぱいという点は同じですが、相手のイオンが違うので味全体は違うことになります。
水素イオンがあると色の変わる色素があります。 リトマスとかBTBとか朝顔やパンジー(紫色の花)の花から取った色素でも色が変わる。
復習実験。 3種の酸とリトマス試験紙、BTB溶液。
アルカリ
水素イオンと化合して水になってしまうイオンがあります。 つまり酸にある水素イオンを水分子に変えてしまう。
水はHOH、水素イオンははH+ですから、そのイオンは原子でいうと酸素1個水素1個でマイナスのイオンです。 つまりOH−というイオンになる。
そのようなイオンを持つ物質が水酸化ナトリウムNa+OH-とか水酸化カルシウムCa2+(OH−)2などの物質です。 アルカリという。
では青いBTB溶液に塩酸を少し入れて黄色にしてから、水酸化ナトリウムを加えて下さい。
水酸化ナトリウム溶液が手についたら、先生の机の上の酢酸溶液に手を突っ込んでください。
中和して青くなりました。 実際に起こった変化は
H+ + OH−→H2Oです。
では水酸化カルシウムを入れて青くしたBTB溶液に塩酸を加えて下さい。
実際に起こった変化はやはり H++OH-→H2Oです。
塩酸を多くすれば、よけいな水素イオンのせいで黄色になる。
水酸化バリウムBa2+(OH)−2というアルカリもあります。 先生の机の上から試験管に入れた水酸化バリウムの水溶液を持っていって、実験でアルカリである事を確かめて下さい。
薄い酢酸溶液を教卓に用意しますから、水酸化ナトリウム溶液や水酸化バリウム水溶液に触ってしまったら、手をこれで中和…アルカリですから酸で中和できる…してから、水洗いして下さい。
硫酸と水酸化バリウムの中和 教師実験と生徒実験
今日の実験では硫酸を使います。 濃い硫酸はさわると火傷になりますが、うすい硫酸は触っても傷がなければ大丈夫です。 しかしうすい硫酸でもほっておくと衣類やノートに穴があく事が多いから、手についたりこぼしたりしたらすぐ炭酸水素ナトリウム溶液で中和して下さい。
電気分解の装置の中に水を入れます。 短い試験管を2本ともセットしたら水酸化バリウムの溶液を入れます。 そこに多めにBTB溶液を入れて濃い青色にします。 水酸化バリウム溶液にさわった時は、先生の机の上にある酢酸溶液で中和して下さい。
短い試験管をゆさぶりかきまわしてから電気を流せばもちろん電気が流れます。 これを硫酸で中和してみましょう。 水酸化バリウムと硫酸との中和です。
白くにごりました。 ここまで教師実験。
水酸化バリウムはBa2+(OH)−2 でバリウムイオンBa2+とOH−(水酸化物イオンという)2つからできていますし、硫酸はH+2SO42−で水素イオン2つと硫酸イオンSO42−からできています。
OH−とH+がぶつかると静電気力で化合し水の分子になります。
バリウムイオンと硫酸イオンがぶつかると、+2と−2の静電気力でくっついてしまい、イオン化合物の硫酸バリウムになります。 +2と-2の静電気力は大変強いので、動き回る水の分子が衝突してもイオンが離れませんから、水に溶けない。
Ba2+ + SO42− → BaSO4
そうすると、水中のイオンが減ることになります。
全部中和だと、バリウムイオンと硫酸イオンは硫酸バリウムという水に溶けない固体になり、OH−(水酸化物イオン)は水になってしまいますから、水中にイオンがなくなるはずで、電気がつたわらなくなるはずです。
しかし実際には少し硫酸を入れすぎたところでBTBの色が黄色になりますから、少しは電気が通りますが、ほとんど通らないようにはできます。
ではかきまわしながら、少しづつピペットで硫酸を加えます。ザツな人ばかりのグループでは硫酸を入れすぎるから電気がかなり流れますが、注意ぶかい人が実験すればほとんど流れなくする事ができます。
水酸化ナトリウム水溶液の電気分解
水酸化ナトリウムはナトリウムイオンと水酸化物イオンからできています。
プラス極には水酸化物イオンが集まりますから OH-が電子をプラス極の静電気力で抜かれ、OHになるはずです。 しかしOHでは手があまってしまう。 ですから、OH2つで水分子と酸素原子になると考えれば、今度は酸素原子の手があまる。
結局4つのOH-イオン(OとHが4つ)から4つの電子が抜かれ、O原子とH原子4つになるが、水分子H2O2つ(水素が4つ酸素2つ)とO2(酸素2つ)になる。 ややこしいのでもう一回考えてください。
OH- マイナス
OH- の電子を H2O O2
OH- 抜く H2O
OH-
結局酸素が出ます。 先生がマッチのもえさしでこの気体が酸素である事を示しますから、見ていて下さい。
マイナス極ではナトリウムイオンがナトリウムにもどり、銀色のナトリウムが出そうです。 しかし実際には気体が出ています。 この気体は先生が実験するとこの通り燃えます。 水素です。
ナトリウムは酸素と仲がよく水の水素を追い出すので、水素がでるのです。
正確な説明は水が一部イオンに分かれているという事を教えなければ不可能である。ここでは20世紀はじめまで行われていた説明とした。
教科書にある「水の電気分解」をどう教えるべきか難しい。NaOHの電気分解として教えるのは、こう教えていても複雑な現象であるから難しく、「理屈を一応教えるけれどわからなくても良い(テストに出さない)」としてテストは教科書マル暗記でできるようにしていた。
水の電気分解を実体ぬきで教科書のように操作的に教えると化学反応式を操作的に作る方法(原子の数が等しくなるよう係数を定める連立方程式を直観的に解く)を教科書で教えなければならない。そうすると大半の生徒はその面倒さにわかるのをあきらめるから、結局わからない生徒が多数でる事は同じである。 生徒の何割かは一般の化学反応式も原子分子の絵を書き、実体的な反応の絵から入らないとわからないのだ。 結局式の丸暗記とならざるを得ない。
質問と教師実験 食塩と砂糖ではどちらの融点が高いか知っていますか? 砂糖はカルメ焼きを作ったとき、液体になったのを見ていますね。
食塩はこの通りなかなか液体にならず、ガラスのほうが液体になりはじめましたから実験中止です。
食塩はナトリウムイオンと塩化物イオンが図のように並び、全部のイオンが静電気力でつながっていますから、これを切らないと液体にならない。砂糖は分子がキチンと並んでいるだけですから、熱するとすぐ並び方が崩れて液体になるのです。 また食塩の結晶は立方体ですが、このようにイオンが並んでいるせいです。 酸化マグネシウムなどイオンからできた化合物はおなじ理由で液体になりにくく、だから融点が高い。
図は理化学辞典や一般教科書にあります。
典型元素の金属と原子模型
実際の授業では古典的原子模型の図を出しました。高校教科書か一般啓蒙書にある図を使って下さい。
金属はイオンと自由電子から出来ています。 金属でない原子には自由電子がない(炭素やシリコンにはほんの少しある)のに、金属原子がイオンと自由電子にわかれるのはどうしてでしょうか。
原子は原子核という大きいプラスの玉と、電子というマイナスの小さい玉からできていて、電子は原子核のまわりをまわっています。 太陽を地球や火星がまわっているようなものです。
ただし電子の軌道には定員があり、一番内側の軌道は定員2、次の軌道は定員8になっています。
一番小さい水素は原子核のプラスが1、電子も1つです。 その電子が他の原子に取られると水素イオンになる。
次に小さい原子がヘリウムですが、原子核がプラス2、電子も2です。 軌道が満杯で余計な電子がないから、ヘリウムは普通イオンにならない。 ヘリウムは水素の次に軽い気体で燃えないから、人間の乗る気球に使われます。
その次が高級電池に使われるリチウムという金属で原子核はプラス3、電子も3です。 1つ内側の軌道からはみだして、2番目の軌道をまわっています。
原子核のプラスが4だとベリリウムという軽い(アルミニウムよりずっと軽い)金属になり、アルミニウムにまぜて使います。 内側2外側2の電子となる。 原子核+5はホウ素で内側2外側3の電子がまわる。 ホウ素は半導体で炭やシリコンと同じく自由電子が少しある。 原子核+6は炭素で内側2外側4です。原子核+7は窒素で内側2外側5、原子核+8は酸素で内側2外側6、原子核+9はフッ素で内側2外側7です。原子核+10はネオンで2番目の軌道も満杯ですからイオンにならない。
原子核+11があの1秒でさびる金属のナトリウムで内側2次が8、3番目の軌道が1です。
原子核+12はマグネシウムで内側2次が8、3番目の軌道が2です。
原子核+13はアルミニウムで内側2次が8、3番目の軌道が3です。
では原子核+11のナトリウム原子の絵を見て下さい。一番外側の電子は原子核からの距離が遠い。 ですから静電気力が弱く、外側電子が逃げやすい。 これが自由電子です。 原子核+12のマグネシウムや原子核+13のアルミニウムもそうで、自由電子とは一番外側の電子がにげ出したものです。 リチウムも同じ理由で金属です。
では原子核+14の原子であるシリコンはどうして金属でなく半導体(自由電子が少しだけある)なのでしょうか。 シリコンの外側電子が逃げるとイオンは+4になります。 そうすると静電気力が強くて、電子は引き戻される。 ですから外側電子のごく一部しか自由電子になれないのです。 原子核+15の燐リンは外側電子が5ですから、電子が逃げると+5であり、電子は逃げ出す事ができず、自由電子無しです。つまり燐は金属でなく、電気を通さない。
ナトリウムはイオンが+1で+2のマグネシウムや+3のアルミニウムより電子を呼び戻す力が弱い。 ですから、酸素、塩素、硫黄などにすぐ自由電子を取られてしまう。 それが1秒でさびる理由です。
外側1個のナトリウム、外側1個のリチウムは金属です。 しかし水素は金属でない。 静電気力は電気の量だけでなく、距離に関係する。 磁力と同じく距離が近いと強い。 水素の電子は原子核との距離が近いので、逃げ出せないのです。
質問 リチウム、ベリリウムは金属です。 しかしホウ素は金属でなく炭素やシリコンのような半導体(少し自由電子がある)です。 外側が3ですから、3つ逃げるとイオンが+3になり、静電気力が強くてほとんどの電子が引っ張り戻されてしまう。 では外側3電子のアルミニウムがプラス3のイオンになり、アルミニウムは金属なのに、同じ外側3電子のホウ素が金属でない理由は?
原子が小さく、外側電子をひきつける静電気力が強いからですね。
質問 外側4電子の金属はあると思いますか?
あります。 鉛や錫は大変大きい原子なので、外側4電子でも原子核からの距離が遠いため逃げ出すことが可能なのです。
典型元素の金属イオンの化合物と水溶性
水酸化ナトリウム(Na+OH−)は大変よく水に溶けます。 食塩(Na+Cl−)もよく溶けます。 炭酸ナトリウム(Na+2CO32−) 炭酸カリウム(K+2CO32−)も塩化マグネシウム(Mg+2Cl−2)もよく溶ける。 塩化カルシウム(Ca+2Cl−2)も塩化バリウム(Ba+2Cl−2)もよく溶ける。
塩化ストロンチウムも溶けます。 水溶液はみな透明で同じように見えるので、炎色反応の復習をする。 炎色反応の生徒実験は塩類溶液にメタノールを加えて脱脂綿にひたしたものをピンセットうつしで与えると簡単。
しかし炭酸カルシウム(Ca2+CO32−)はほとんど溶けない。 炭酸マグネシウム(Mg2+CO32−)もほとんど溶けない。
このあたり生徒実験です。
質問 炭酸バリウム(Ba2+CO32−)は溶けると思いますか?
もちろんほとんど溶けない。
炭酸ストロンチウムもほとんど溶けない。市販のない場合は作っておきます。塩化バリウム水溶液と炭酸ナトリウム水溶液をまぜると沈殿。
硫酸ナトリウム(Na2+SO42−)は水に溶けます。 硫酸イオン(SO42−)は、硫黄原子のまわりに4つの酸素原子がついている大きなイオンですが、手の貸し借りがあって後から説明するような面倒な化合の仕方をしています。
質問 硫酸バリウム(Ba2+SO42−)は水に溶けるのでしたか?
ほとんど溶けない。
硫酸ストロンチウムもほとんど溶けない。硫酸カルシウムもほとんど溶けないとする。
質問 炭酸カリウム(K+2CO32−)は水に溶けると思いますか?
問題 炭酸リチウム(Li+2CO32−)は水に溶けると思いますか?
予想に反して炭酸リチウムはほとんど溶けない。炭酸カリウムはもちろん溶ける。
市販のない場合は作っておきます。塩化リチウム水溶液と炭酸ナトリウム水溶液をまぜると沈殿。
リチウムは小さい原子ですから、炭酸イオンとリチウムイオンとの距離は短い。 そうすると静電気力が強くなるので、水の分子がぶつかってもバラバラにならず、ですから水にほとんど溶けないのです。 食塩など+1・−1のイオン化合物は水によく溶ける。 静電気力が弱いので、水の分子がぶつかるとバラバラになり、イオンは水の中にちらばって行きます。 「水と油」という授業では、水と仲良しの部分が分子の大きさのわりに多ければ溶けるのでした。イオンはみな水と仲良しです。 ですからイオン化合物では、静電気力が弱ければみな溶けるのです。
問題 では硫酸ストロンチウム(Sr2+SO42−)は水に溶けるでしょうか。
ほとんど溶けない。 硝酸ストロンチウムか塩化ストロンチウム水溶液と硫酸ナトリウムの水溶液をませると沈殿するから簡単に作れる。
問題 では硫酸マグネシウム(Mg2+SO42−)は水に溶けるでしょうか。
溶けるのです。 「静電気力が弱いと溶け、強いとほとんど溶けない」という規則の例外です。 硫酸アルミニウム{Al3+2(SO42−)3}も静電気力が強いはずなのに水によく溶ける例外です。その理由を科学者は次のように説明しています。
イオンの電気の力は「イオンのプラスの数が多いと強く、イオンが小さいと強い」。 そのように電気の力の強いイオンは水と大変仲良し(「親和性が高い」という)なので、イオンのまわりに水分子がくっついてしまう。 そうするとイオンは水に囲まれた大きなイオンに化けてしまい、静電気力は弱くなってしまうのです。
「イオンの作る電場」というのが正確だが、この一例のために電場という概念を導入するわけにはゆかない。また、こっそり極性溶媒の概念を持ち込んでいる。一般理論とするのでなく、例外的扱いで持ち込む。
先生に硫酸マグネシウムや硫酸アルミニウムのびんのレッテルを見せてもらって下さい。 そうすると硫酸マグネシウムは(MgSO4)でなく、水がついている事がわかります。 MgSO4・7H2O。 この7分子のうち6つはマグネシウムイオンを取り巻く水です。 硫酸アルミニウムも{Al2(SO4)3}・18H2Oです。 このうち12分子の水分子はアルミニウムイオンを取り巻く水分子です。つまり1個のアルミニウムイオンのまわりに6つの水分子がある。 だから相手の硫酸イオンとの静電気力が弱くなる。
では炭酸マグネシウムのときは、どうしてマグネシウムイオンを水分子が取り囲まないのでしょうか。 マグネシウムイオンが水の中にあるときは水分子に取りかこまれていますが、炭酸イオンは硫酸イオンより小さいので、マグネシウムイオンと炭酸イオンがキチンと並んで結晶をつくるときはイオンの間に水分子が入らないのです。
結晶の形とイオン配置について個人的質問が出たら、岩波理化学辞典を見せる。
イオン反応と沈澱
炭酸ナトリウム水溶液と塩化カルシウム水溶液をまぜるとどうなるでしょうか。炭酸ナトリウム水溶液では+1のナトリウムイオンと-2の炭酸イオンが泳ぎ回っていのすし、塩化カルシウム水溶液では+2のカルシウムイオンと-1の塩化物イオンが泳いでいます。 そして+のイオンと-イオンは静電気力で引き合いますか
ら、始終ぶつかっています。
生徒実験。
質問 出てきた白い粉は何ですか?
復習実験
塩化リチウムと炭酸ナトリウム。
出てきた白い粉は?
復習実験はもっと多いほうが望ましいです。
イオン化合物と分子、共有結合
食塩(塩化ナトリウム)はイオンからできていますから、800度と融点は高い。 静電気力でくっついている(イオン結合という)イオンをバラバラにして勝手にうごきまわるようにするには、よほど粒(イオン)を激しく動かさないといけない。 塩化マグネシウムも融点は高く1410度です。
しかしナトリウム、マグネシウムと並んでいるアルミニウムでは違う。塩化アルミニウムの融点は190度と低い。 これはイオンが静電気力で結合している(イオン結合をしている)化合物つまりイオン化合物でなく、分子である証拠です。
イオン化合物は、全部の粒が静電気力で結合しているため、熱してもなかなか並び方を崩す事ができず、かなり高温まで粒がキチンと並んだままです。 しかし分子でできていると、並び方を低い温度でも崩す事ができる…つまり分子でできていると融点が低いのです。
ではどうして塩化アルミニウムは分子なのでしょうか。
アルミニウムのイオンは+3ですから、塩素に取られた電子を引き戻す力が強く、引っ張り戻して、その電子を塩素と共有するようになる。
そしてその共有電子が「手」なのです。つまり塩化アルミニウムはAl3+Cl−3
でなくて、Cl−Al−Cl 、AlCl3 という分子です。
Cl
ただし塩化アルミニウムは水に溶かすとイオンに分かれます。 水があるとアルミニウムイオンを水分子が取り巻くので、アルミニウムイオンと塩素のイオンとの距離が遠くなり電子を取り返すということがなくなります。 食塩ははじめからイオンばかりでできているが、塩化アルミニウムは純粋な場合は分子、水中でイオンです。
塩化ナトリウムや塩化マグネシウムははじめからイオンになっていて分子はない。
共有結合
ではこのような「手」で結合している分子の構造について復習しましょう。 まず水HOHから。
酸素は外側6電子ですから、満杯まであと2つです。 ですからナトリウムやマグネシウムと化合するときは、自由電子2つを取って軌道を満杯にし、マイナス2のイオンになります。
しかし結合する相手が水素や炭素のときは、塩化アルミニウムの塩素・アルミニウムと同じく電子を共有します。 水では 図は書いて下さい
2酸化炭素では炭素は外側電子4つで満杯まであと4つです。図は書いて下さい
構造式とくらべて下さい。 「水と油」の授業書では「手」は電子から出来ていると書いてありました。 手とは共有している電子の対(つまり2個の共有電子)の事なのです。 共有していない電子は構造式に書かない。
ではアンモニアの場合を調べましょう。 窒素は外側5電子で満杯8まであと3つです。 ですから相手がナトリウムだと、自由電子を3個取って、Na+3N3−というイオン化合物を作ります。 しかし相手が水素のときは3個の水素と電子を共有して となるのです。図は書いて下さい
配位結合
共有結合では、両方の原子から電子が出て共有しているのが普通です。 しかし電子を片方が出す例外があります。
一酸化炭素 アンモニウムイオン 硝酸
硫酸と硫酸イオン 燐酸イオン オゾン
電子配置図は板書で片付けた。 図は理化学辞典ほか一般の大学教科書、啓蒙書にあり。高校教科書にもあるはずだが未確認。
八隅説と酸素や硫黄、塩素が自由電子を取る理由
酸素が自由電子をほしがるのはなぜでしょうか。 酸素原子の外側の電子は6個で定員が8ですから、酸素原子は金属の自由電子を2つ取ってマイナス2のイオンになりたがるのです。 硫黄も外側の電子が6個ですからマイナス2のイオんになろうとします。 塩素は外側の電子が7個ですから、1つ電子をとってマイナス1のイオンになろうとします。 酸素、硫黄、塩素があると金属がさびる理由です。
遷移元素の金属と八隅説
もう一度周期表にもどります。
第2軌道までは、軌道が満杯になってから、次の第3軌道に電子が入りました。ところが、それ以上だと内側の軌道が満杯にならないうちに電子が外側の軌道に入る事があります。 この理由は量子力学という難しい学問になるので大学で勉強して下さい。 ここでは、そういう原子があるという事さえわかれば良い。
内側に入る事があるため、周期表では原子を軽さや大きさの順に並べるだけでなく、外側の電子の数を大切にした表にしてあります。 原子にはaという字の下にある原子とbという字の下にある原子がありますが、aという字の下にある原子は上の数字だけの電子が外側を回っているので、典型元素といいます。 1aには水素、リチウム、ナトリウムなどが並んでいますが、これらは外側の軌道の電子が1つで水素以外はみな金属です。
2aにはベリリウムやマグネシウム、カルシウムがありますがみな外側の電子は2つでみな金属です。 ホウ素やアルミニウムは外側3、炭素やシリコンは4、窒素や燐は5、酸素や硫黄は6、フッ素や塩素は7です。 それに対し、bという字の下の原子はどこに書いてあっても金属で、外側電子は1から3です。 つまり内側の電子が満杯でないのです。 内側の電子が外に出たり入ったりする元素もあり、鉄はプラス2イオンになったり+3のイオンになったりします。
ランタニド、アクチニドのところは、内側の軌道が違っているだけで外側の構造は同じだから原子の性質があまり似ているので、同じコマに書いてある。
周期表の位置で原子の手の数、イオンの+−数がわかる原子を典型元素という。
そうでない原子を遷移元素という。 鉄、銅、金、銀、亜鉛などは遷移元素です。 遷移元素では内側の軌道に空きがありますから、内側と外側を電子が行き来する事もあります。 鉄が代表です。
鉄のような遷移元素が分子に入ると、手の数やイオンの電気の数がが変動するので、ヘモグロビン分子のように酸素と結合したり、離れたりする分子になりやすい。
触媒といわれるものは、遷移元素の手や遷移元素イオンのプラスの数が変わりやすい事を利用しています。 触媒は反応する物質とくっついたり離れたりするのです。
遷移元素と巨大分子
遷移元素では電子が内側に入ったり外に出たりしやすく、内側の電子もイオンのプラスの数や共有結合の手(電子の対)に関係がありますから、いままでの規則(典型元素のイオンで成り立つ規則)は成り立ちません。 遷移元素は共有結合・配位結合を作りやすく、そのため化合物がイオン化合物でなく、巨大分子、分子になってしまう事が多い。
ただし結合したイオンが巨大分子に化ける場合は、静電気力が強くプラスのイオンとマイナスのイオンが近づく事(つまりイオンが近づきすぎて電子がマイナスイオン側だった原子核だけをまわるのでなく、プラス側の原子核もまわるようになってしまう…つまりイオン結合が共有結合に化ける)が必要ですから、マイナスイオンが−1の場合は巨大分子になる例が少ない。 普通の物質としては塩化銀、臭化銀、ヨウ化銀、塩化水銀、塩化鉛程度です。
フッ化銀はイオン化合物になります。 これが、ハロゲン化銀でフッ化銀だけが水に溶ける理由です。フッ素はー1で本当に定員が満杯であり、仮の定員の8(副量子数1の軌道)だけが満杯になったわけではないから、外側軌道の関係した配位結合が不可能
であり、銀と巨大分子を作らない。
マイナスイオンが−2となると巨大分子はごく普通で、酸化銀、酸化銅、酸化鉄、硫化鉄、硫化銅などは巨大分子です。 ですから正確な化学式は Ag2∞O∞、Cu∞O∞ 、Fe3∞O4∞ 、Fe∞S∞ Cu∞S∞ などとなります。 ∞は無限大と読み、大変数が大きい事を示します。 ダイヤモンドや石墨はC∞です。
しかし普通は無限大を省略して、Ag2O、CuO 、Fe3O4 、FeS 、CuSと書く習慣です。
巨大分子は水分子がぶつかってもバラバラにならず、(水と化学反応をしないかぎり)水に溶けない。
M社砒素ミルク事件
昔、猛毒の砒素ヒソがミルクにまじっていて多数の子どもが被害者になった事件がありました。 ヨーロッパでは暗殺によく使われた有名毒物である砒素がどうしてミルクにまじっていたのでしょうか。
周期表を見ると燐リンと砒素は両方とも外側電子が5つという典型元素です。 ですから燐の入った燐酸リンサンイオンPO43−と砒素の入った砒酸ヒサンイオンAsO43-は形が同じで大きさもほんの少し砒酸のほうが大きいという位です。。
ですから、それらが金属イオンと作る化合物の結晶は同じ形をしていて、再結晶しても分ける事は困難です。 ですから天然の燐酸のはいった岩石には砒酸がまじります。 つまり火山活動のために天然の再結晶がおこるときも、燐酸化合物と砒酸化合物はまじったまま結晶になるのです。 砒酸イオンは燐酸イオンにその位似る…つまり砒酸イオンは人間の細胞が生きて行くために絶対必要な燐酸イオンのニセモノですから、人間には猛毒です。
---細菌の栄養のニセモノが細菌には猛毒だから、人間の薬になるという話をおぼえていますか?
では食べる燐酸はどこから取るかというと、動物の骨から取る。 動物の骨には砒酸がないから、その燐酸は安全です。 しかし値段が鉱物から取った燐酸より高い。 そこでM社では山から掘って取った安い燐酸をミルクに入れ、多数の子どもが被害者になりました。
イタイイタイ病
岐阜県のK鉱山から出るカドミウムイオンが富山県の神通川に流れ込み、神通川の魚を食べた人がイタイイタイ病になりました。 骨がもろくなって折れやすくなり、折れるときに患者が痛い痛いと泣き叫ぶ事からこの悲惨な名前がついたそうです。
ではK鉱山ではカドミウムを掘っていたのかというと、亜鉛を掘っていたのです。 亜鉛は電池や合金に使われる重要な金属です。 そして周期表を見ると亜鉛の下にカドミウムがあり、亜鉛とカドミウムは性質が似ている。 つまり亜鉛イオンとカドミウムのイオンは天然の再結晶で一緒の鉱物結晶に入ってしまうのです。 群馬県でも亜鉛工場がカドミウム公害をおこしています。
カドミウムイオンはカルシウムイオンともかなり似ていて+2のイオンの大きさがほとんど同じである事が分かっています。 ですから燐酸カルシウムからできている骨をつくるのを妨害すると考えられます。
高エネルギー燐酸結合
細胞の中で重要な働きをする分子にATP(アデノシン3燐酸)があります。 ATPはアデニンという分子に燐酸3個がついたものです。 ブドウトウを二酸化炭素と水に分解するとき出るエネルギーで細胞はATPをつくり、ATPから燐酸が離れるときに出るエネルギーで、人間は運動をしたり必要な分子を作ったりします。
どうして燐酸がはずれる時に大きなエネルギーが出るのでしょうか。
燐酸はH3PO4ですが、酸素はP燐原子のまわりの対称な位置にあります。 そして3個の水素は4個の酸素原子の間を渡り歩いています。 燐酸イオンは酸素が対称な位置になっています。 ところが燐酸が2つとか3つつくと、燐酸イオンのもつマイナス電気のために、静電気力で互いにとなりの燐酸の形がゆがみます。
燐酸が1つ(2つ)はずれると、ゆがみがもどるため大きなエネルギーが出るのです。
周期表は阪大理学部教授だった故・槌田竜太郎氏の提案するものが、化学実験では有用と考えられます。
周期表(槌田式)の規則
1. 典型元素では左下が金属で、右上が非金属。 左下ほどプラスのイオンにな
りやすく、右上ほどマイナスのイオンになりやすい。
2. 典型元素(aの下)では上下が似ている(水素は例外)。
3. 大多数の典型元素はプラスイオンになるとき上の数字と同じ数のプラス。
4. 典型元素がマイナスイオンになるときは、8−上の数字のマイナス。
5. 遷移元素(bの下)はみな金属。
6. 遷移元素は上下が似るときと、隣が似ているときがある。 たとえば鉄とよ
く似ているのはニッケルとコバルトでどれもみな磁石につく。
7. 遷移元素は金属だからプラスのイオンになるが、そのプラスの数を予想する
簡単な方法は無い。 電荷数が2種類という元素も普通である。
他の周期表ではこの7つの法則の例外ができてしまう。
槌田式周期表とは典型元素をa、遷移元素をbにした短周期形式のものです
から、そうなっていない表では切り貼りをして、同じコマ内部にある2種の位
置を変えます。 普通は物理的性質を優先した周期表になっています。
T | U | V | W | X | Y | Z | [ |
a b | a b | a b | a b | a b | a b | a b | a b |
H | (H) | He | |||||
Li | Be | B | C | N | O | F | Ne |
Na | Mg | Al | Si | P | S | C | A |
K | Ca | Sc | Ti | V | Ti | Fe Co Ni | |
Cu | Zn | Ga | Ge | As | Se | Br | Br |
Rb | Sr | Y | Zr | Nb | Mo | Tc | Ru Rh Pd |
Ag | Cd | In | Sn | Sb | Te | I | Xe |
Cs | Ba | La* | Hf | Ta | W | Re | Os Ir Pt |
Au | Hg | Tl | Pb | Bi | Po | At | Rn |
Fr | Ra | Ac* | Th | Pa | U* |
1955大阪集画堂から出版。 もとの表には元素の名、原子量のほか、イオン半径ほかの化学的性質が書かれている。