お話 白血球と細菌・ウィルスとの戦い

 実験が困難ですからお話としましたが、仮説実験授業に似せて生徒の興味発展の順に教材を配置し、また関心を高め視点を集中してからルールを出すという内容になっています。 教科書のように事典と同様の順では面白くないし、視点がぼけてルール定着率が悪くなる。 クローン選択説は扱いますが白血球の種類の解説は退屈だし、以下の程度の内容では分類によって世界がひろがるわけでもないから省略。
 完成度はA-Bだと思いますが、理論好きな生徒でないとつらいので、普通の学年での授業容易さはB-Cだろうと思います。 構造式を学習していなければ、分子模型で間に合います。

モノが腐るのは細菌のため

 ごはんや味噌汁などを何日かソノヘンに置いておくとどうなるか知っていますか? 腐ってしまう。
 パックの牛乳は1週間以上もつのにふたを開けたらすぐ腐る。なぜですか?  目には見えないが細菌が空気中にいて、落ちてきた細菌が中に入って増えるからです。 昔の人はその事を知らず「自然に腐る」と思っていました。 フラスコでスープを煮たあと、細菌が入らないように封をすれば腐らない(缶づめの原理)という実験に対しては、新しい空気が入らないから腐らないと主張する人がいました。    
            絵を入れてください
 パスツールという科学者は、白鳥の首型フラスコを作ってスープを入れ、スープが自然に腐る、という考えがまちがいである事を証明しました。 この装置では空気は入るが細菌は長い
首にひっかかるので入らないからスープは腐らない。 

 夏と冬ではどちらが速く細菌がふえるのかわかりますね。 夏です。
 細菌にはふえるのが遅いものと速いものがあります。 速いものは35度位の温度だと30分に1回分裂する。 

 では順調に30分に1回の分裂が続いたら半日で細菌はどの位ふえるのでしょうか。 
 30分で2倍、1時間で2×2だから4倍。
 2時間では4倍の4倍で16倍。
 4時間では16×16で256倍
 6時間ではその16倍ですから4096倍。 約4000倍です。
 ですから半日では4000倍のまた4000倍の16000000倍。
 1匹の細菌が落ちてくると半日で1600,0000に増える可能性がある。 これではモノがくさるわけです。 ごはんも味噌汁もスープも細菌のかたまりに化けてしまいます。

 私たちの血の中には塩のほか、ブドウトウやアミノ酸などの栄養がとけています。 胃袋や小腸で吸収した栄養を血に溶かして、全身の細胞にくばるのです。 私たち人間は細胞からできているが、どの細胞も酸素と栄養が必要です。 
   
 それなのに血はどうして腐らないのでしょうか?  細菌が入れない。

 ころんでうでをすりむきました。 血がでています。 その場合腐ることがあるでしょうか?  腐ってもおかしくないですね。 土の中に細菌がいるし、空気中からも細菌が落ちてきます。
 腐ると当然人間は死にます。
 でも昔は消毒薬がないのに、そう簡単に人間は死にませんでした。 細菌と戦う専門の細胞である白血球が血液中にあるからです。

おでき
 大きな池や沼にはアメーバという原始的な生物がたいていいます。 アメーバは1個の細胞から出来ていて、細菌を食べます。 
 白血球はこのアメーバに似ていて侵入した細菌を食べてしまう。      
    図は探すか描いて下さい。実際の授業では白血球が細菌を食べている写真・・・Alvin Nason & Robert L. Dehaan "The Biological World" John Wiley & Sons,Inc. という生物学一般を扱う教科書から。

 傷口を消毒する…つまり薬で細菌を皆殺しにするのを忘れて、傷口から細菌が入ったとします。 多くの場合はすぐ白血球に食べられてしまい、細菌は住み着く事ができない。 
 全部食い殺す事ができず、細菌が住み着いて、血液(や組織液)を栄養にして細菌がふえはじめると「おでき」のはじまりです。

 そうすると近くの白血球が集まり壁をつくって細菌がひろがるのを防ぎながら、一斉に細菌を食べる。 白血球は顕微鏡でやっと見える大きさですが、多数が集まるので、血管がふくれあがります…腫ハれるのです。 これがおできです。
 細菌のほうでは、どんどん分裂して全部は食われないようにする一方、毒を出して白血球に対抗する。 ですからおできにさわると熱い。
 たいていは白血球の勝ちとなり、ウミが出ておできはなおります。 ウミは主に戦いで死んだ白血球のかたまりです。 今は薬を使って白血球を援けますから、おできで死ぬ事は珍しいが、昔は戦いに負けて、おできの細菌がひろがり、血液中が細菌だらけになって死ぬ人がいました。 敗血症ハイケツショウという病気です。


 消毒薬は細菌を皆殺しにする薬です。 細胞をみな殺しますから、傷口の細胞も少し死ぬ事になります。注射したり飲んだりする事はできません。 人間にも毒になる。 
 飲んだり注射したりする薬は、細菌には猛毒で人間細胞にはあまり毒にならないものを使います。 40年ほど前までよく使われたサルファ剤の原理は「ニセの栄養で細菌をだます」というものでした。

 パラアミノ安息香酸は人間の細胞にも役に立つもので人間の体の中にある物質ですが、人間の細胞はこれがなくても生きられます。 しかし多くの細菌はパラアミノ安息香酸を吸わないと増えられない。 そこで科学者がパラアミノ安息香酸のニセモノを作り細菌をだまして吸い込ませる、そうするとニセモノは役に立たないから細菌は増える事ができず、白血球にさっさと食われてしまう…という原理です。 ホンモノの栄養の分子と科学者の作ったニセモノの分子をくらべて見てください。

ホンモノ(パラアミノ安息香酸)分子   ニセモノ分子の例(スルフォンアミド)
   H H               H H
H  C C   O         H  C C    O H
N C   C C          N C    C  S N 
H  C C   O H       H  C C    O H
   H H               H H    
 C 炭素原子  N 窒素原子  H 水素原子  S 硫黄原子 
  --- 結合手は書いて下さい。                 
 ニセモノ分子のほうがホンモノ分子よりずっと多ければ、多数の細菌はニセモノのほうを吸い込んでしまう。 ニセモノは細菌に対してだけ猛毒という事になります。 人間の細胞はホンモノを吸いこまなくとも生きられるからです。
   試験管やシャーレで細菌を飼い、ニセモノを加えると細菌は育たなくなりますが、本物を多量に加えるとまた育つようになります。 ホンモノが多ければ細菌はホンモノを吸い込む。

 次に発見されたペニシリンは、細胞壁を作る現場に近づき、細胞壁を作るのを妨害する分子です。 細菌と植物の細胞には細胞壁があるが、人間など動物の細胞に細胞壁はない。 そこで多くの細菌にとってペニシリンは猛毒ですが、人間にはあまり害がないという事になります。
 このように細菌にだけ猛毒という物質を科学者は次々に発見し、それが薬として使われています。
 
強力な毒の分子をばらまく細菌と免疫
 細菌の中には大変強力な毒分子をばらまく種類があります。 コレラ菌、チフス菌、赤痢菌、ジフテリア菌などです。 これらの細菌が侵入すると強力な毒のため40度の熱が出る事が多い。 もちろん死ぬ人も多く、昔コレラが流行すると町の人口の1/4が死んだという事もありました。

 白血球はこれらの細菌と戦うとき、もう1つの方法でも戦います。 敵が強力な毒を出したらどうすれば良いのでしょう?
、こちらも強力な毒をだして対抗…などと考えてはいけません。 そんな事をしたら多数の細胞がやられて人間が死んでしまう。

 では中和剤をまいたらどうか、と考えられます。 白血球は細菌の出す毒の中和剤…抗体コウタイを作る能力を持っています。 抗体はたんぱく質の一種で毒素や細菌の表面の分子と化合する。毒素分子は抗体分子と化合して別の分子になり、毒性がなくなる。 またくっつくと細菌が身動きできなくなるような抗体もつくる。 
 たいていの病気は3日とか1週間寝ていると治りますが、抗体の大量生産がはじまったからです。 抗体の大量生産が間に合えば、これらの病気は治ります。

 どうして時間がかかるのでしょうか。 
 1つの白血球は1種類の抗体しか作れません。 白血球のような1つの細胞に多種類の抗体を作る装置をのせる事は不可能です。 ですからコレラ菌に対抗するにはコレラ菌専門の白血球が多数必要ですし、チフス菌に対抗するにはチフス菌専門の白血球が多数必要なのです。 ジフテリア菌に対抗する白血球もあれば、赤痢菌に対抗する白血球もあります…・・細菌の種類は大変多い。 また毒蛇の毒とか、サソリの毒とか他にもいろいろな毒がある。 それらの毒を中和する抗体を作る白血球もみな専門家なのです。
 多数の種類の専門家を多数用意すると必要な白血球があまりにも多くなりすぎ、血の中にある白血球では数が足りない。

 そこで、次のような方法で多数の専門家白血球を作れるようにしています。毒素や細菌を見つけた白血球は、その毒素分子や細菌の表面の分子を調べる。すると体の中では無数の種類の白血球が作られ、調べた細菌や毒素に対抗する抗体を作れる白血球はどれか探す。 そして必要な白血球が見つかるとそれが大量生産され、その白血球が抗体を出す…このやりかたは時間がかかる。でも多種類の毒
を中和することができる方法です。
 そして抗体の大量生産が間に合い、病気が治った人はもうその病気にかからない。 これを免疫(メンエキ 疫は病気の事)といいます。 コレラにかかって治るとコレラにはかからない。 ジフテリアがなおった人は、もうジフテリアになりません。 専門の白血球がすぐ大量生産できるようになっているので、もう一度細菌が入ってきても、すぐ抗体が大量生産されて細菌は身動きできず、毒素は中和されてしまう。  
 だからコレラで死なないようにするには、コレラ菌を注射すれば良いはずです
でもそんな事をしたらコレラになって死ぬかも知れません。

予防注射の原理

 細菌をニセモノの栄養でだます、という方法がありました。 
 白血球をニセの毒素やニセの細菌でだますという方法があるのではないでしょうか。 細菌や毒素のニセモノを注射すると、その細菌や毒素に対抗する白血球がすぐ作れるようになる。 だから強力な細菌が侵入しホンモノの毒分子がバラまかれても、専門の白血球がすぐ大量生産されるから大した事がない。 細菌はすぐ白血球に食べられ全滅するという原理です。

 そのニセモノの注射とは何かわかりますね。 予防注射です。  
 だからコレラの予防注射とチフスの予防注射、赤痢の予防注射、ジフテリアの予防注射などはみな違うのです。 それぞれの細菌、それぞれの毒素分子がちがっていて、これらに対抗する白血球もみな別々の専門家ですから仕方ありません。
 細菌のニセモノとしては薬で殺した細菌、毒素のニセモノとしては毒素分子を少しこわして毒性を弱くしたものを使うのが普通です。

 結核もおそろしい病気で、50年ほど前までは、日本人が死ぬ原因の一位がガンや高血圧、心臓病などでなく結核でした。 たいていは肺に住み着き、患者が血を吐いて死ぬので「肺病」と言っておそれられました。 
 結核菌の毒素はあまり強力でないし、結核菌はふえるのが遅い。 そのかわり結核菌はよろいのようなものをつけた細胞で、白血球が食べにくいから結核はなおる場合も死ぬ場合も長期戦になる。 結核菌が体に侵入するとツベルクリン検査が陽性となり、お医者さんから、半年とか1年間注意するようにいわれる。 結核菌との戦いがはじまっているから勝つまで注意が必要というのです。 

 予防注射の効果は弱いが子供に使われB.C.G.といいます。  B.C.G. は牛の結核菌で、牛の結核菌と人間の結核菌が似ている事を利用してニセモノ扱い(つまり白血球をだます)したものです。 殺した結核菌では白血球をだます事ができなかったからです。

血清療法
 ハブのようなヘビの毒やジフテリア菌の毒は極めて強力なので、数時間とか2-3日で人間が死んでしまう事が少なくない。 これらの毒には直接抗体を注射して毒素と化合させるという方法を使います。 血清療法という。
 馬が死なない位の毒を馬に注射し、馬の白血球に抗体を作らせ、その抗体を集めて薬にする。 世界毒蛇ワーストテンの10位くらいに入るという猛毒を持つハブのいる沖縄県では、ハブ血清…つまりハブの毒分子と化合する抗体(分子)の
溶液が町や村に用意してあり、ハブにかまれた人が死なないようにしています。

ウィルス
 ウィルスはカゼやインフルエンザ、オタフクカゼなどの原因になります。  ウィルスは細菌と違って細胞ではなく、DNAとかRNAという大型の分子とたんぱく質(これも分子)のくっついたものです。 ウィルスは人間の細胞に侵入してその細胞を乗っ取りウィルスの生産工場に変えてしまい、死んだ細胞がこわれると多数のウィルスが出てくる、という方法で増えます。
   細胞には核があり、その核にはその生物の性質を伝える遺伝子という分子がありますが、その遺伝子がDNA分子です。 RNAも似たものだと思って下さい。ウィルスは人間の性質を伝える遺伝子DNAを排除して、ウィルスDNAやRNAの性質が伝わるようにする。
 白血球はウィルスに対しても「食べる」「ウイルスの抗体をつくる」などの方法で対抗します。 また「ウィルスの侵入した人間の細胞を見分けて細胞ごと殺してしまう」という方法も使います。
 カゼが3日くらいでなおるのは、抗体が大量生産されたためです。

 コレラやチフスは一度かかったらもう一生かからないのに、カゼは何回でもかかる。カゼのウィルスの種類は大変多く、次にかかるカゼウィルスの種類が前のと違うのです。 ですからカゼの予防注射はつくっても役に立たず、どの国でも作らない。 
 インフルエンザの予防注射は作っていますが、たいてい効かない。 インフルエンザのウィルスは1年たつと変わり者のウィルスに化けてしまうので、前の年のウィルスに対抗する白血球のつくる抗体は役に立たないのが普通だからです。 型がちがうといいます。

 エイズのウィルスはもっと変化が速い。 だから白血球が抗体をつくっても、侵入したエイズウィルスを皆殺しにした頃には一部が変身して別の型のエイズウィルスに化ける。 それをみな殺しにするとまた別の型のウィルスに変わっている。それが3-10年続いてそのうちに白血球が負けてしまう事が多い。   
   エイズウィルスは普通の細胞でなく、一部の白血球に侵入してそれを破壊する。   その白血球は毒素分子やウィルスの種類を見分ける専門の白血球だから、全部破壊されると抗体を作る事ができなくなり戦いは負けとなる。
 ただしエイズは行いに気をつけていればうつらないので、普通の日本人は安心できます。 以前はエイズウィルスの入った薬でエイズになった人が多かったが、その薬品は禁止になり、今から不良薬品の被害者になる人はいません。
    アメリカで禁止になってもしばらく日本では使い続けたため、禁止をしなかった責任者として製薬会社社長・医学者・厚生省責任者が起訴され、裁判になっています。   エイズは主に性交(セックス)と麻薬注射でうつるので、多数の相手と性交をする人や麻薬注射をする人が少なければ流行しない。 現在エイズを確実になおす薬はないが、ウィルスの生産工場になってしまった細胞のウィルス生産を妨害し、命を伸ばす薬はある。
 エイズウィルスはもともとアフリカのサルのウィルスが人間のウィルスに変わったものではないかといわれています。アフリカsex旅行をした行いの悪い人が世界中に広めて歩いたらしい。アフリカの人々の中にはエイズにかからない人々がいる。この人たちの白血球はエイズに負けないので学者がその理由を研究している。エイズが大流行すれば、エイズにかからない人が生き残ってしまうから、生き残りの人の白血球は対抗できることになる。 エイズが新しいウィルスなのでたいていの人の白血球は対抗できないのです。
  現在エイズの大流行している地域はアフリカ南部で、人口の数%程度がエイズウィルスに侵入されエイズになったか、将来なる可能性の大きい人々です。 その次の流行地がインド・タイなど東南アジアとアメリカ合衆国で人口の0.6%程度です。 米国程度の数字でも、若者の死ぬ原因の一位はエイズです。
 「細菌やウィルスのニセモノで白血球をだます」という今の方法ではエイズの予防注射をつくる事ができない。 理由はわかりますね。 

以下は興味のある生徒の自習
狂牛病
 狂牛病は異常たんぱく質のためにおこる病気です。 このたんぱく質は脳にある正常なたんぱく質(正常プリオン)を自分と同じ異常たんぱく質(異常プリオン)に変えるという方法でふえる。 脳がやられるから、頭がどんどん悪くなり、運動能力が落ちて、最後は動けなくなり死ぬ。 昔は食人の習慣がある遅れた種族で見られました。 異常たんぱく質を持つ人を食べるとうつる。 
   21世紀文明の今、人間を食べる「首狩族」など存在しません。 しかし昔は世界中で迷信(科学以前の間違った考え)のため食人がひろく行われたと考えられています。たとえば敵の強い奴を食べると強くなるという迷信です。 ところが最近死んだ牛を加工して牛のエサの一部にするようになりました(肉骨粉)。 そうすると牛が食人でなく食牛をしていることになり、狂牛病がひろがったと考えられています。 日本では2001年になってやっと死んだ牛を加工してエサにする事を禁止したので、これから狂牛病がひろがる事はありませんが、これまでの分がどうなるか心配されています。 狂牛病は異常プリオンを食べてから10-15年くらいで病気になるのが普通だからです。 狂牛病は病気の牛を食べた人間にもうつる可能性があると考えられています。

リウマチ
 ふつうの人の白血球は自分の体の細胞を攻撃しません。 ところが白血球が間違えて自分の体の細胞を攻撃するようになったという病気があります。 どうして白血球が(今まで間違えなかったのに)間違えるようになるのか研究がすすめられています。