On の本当の意味

 米国で出版された、外国人にはじめて英語を教えるための入門教科書をみていたところ、次のような文章がありました。
 The tree has many apples on it.

 アメリカ人やイギリス人なら幼稚園保育園の子供たちでもわかるやさしい文ですが、日本の中学生にはやさしくない。
 Treeは木で、manyは多く、appleはリンゴですから The tree has many applesまでの意味はわかりますね。
 木にたくさんリンゴがなっている、という意味です。 しかしon itとは何でしょうか。

 It のほうは考えればわかりますね。 1つのものですから、(2つ以上はthem)リンゴでなく、木です。 たくさんのリンゴが木にonとはどういう事でしょうか。

Onの例を調べてみましょう。
 There is a fly(ハエ) on the ceiling(天井)。 天井にハエがとまっているという意味です。
 The picture hangs (ブラサガル) on the wall(壁). 壁に絵がかかっているのです。 ハエは天井の下ですが、onですし、絵は壁の横ですがon です。 下でも横でもonとはどういう事でしょうか。 教科書の例のように上の時もあります。
 イギリス人やアメリカ人は上も下も横もonだと考えるようです。

 では次の例を見てください。
 Turn on the light! Turnは水泳のターンで方向を変えること、lightは電灯です。
これはスイッチをひねって電気をつけろ、という意味です。 その反対は
 Turn off the light! スイッチをひねって電気を消せという意味です。
 そういえばよくスイッチにON OFF と書いてあります。 ONだと電気がつくし、OFFだと電気が消える。 
 こうみるとonはoffの反対のようです。 そしてoffは離れている様子を示す単語です。

 スイッチをひねったり、倒したりして導線がくっつくと電気が流れて電灯がつくのだし、スイッチをひねったり、倒したりして導線が離れると電気が流れなくなるから電灯が消えるのです。
 Offは離れている様子をあらわしているなら、Onはくっついている様子をあらわす言葉なのではないでしょうか。 くっつくなら、上でも横でも下でもよろしい。 ハエは天井にくっついているし、絵は壁にくっついているとイギリス人や アメリカ人は考えるのではないでしょうか。

 そうすると次の文章がよくわかる。
 I put the book on the desk. 机に本を置く 置くときは本が机にくっつく。
 I take the book off the desk. 机から本をとる 取るときは本が机と離れる。
では最初の文章にもどりましょう。
  The tree has many apples on it.
 リンゴは木にくっついている…枝葉をふくむ木全体にくっついて見える…つまりリンゴは木の枝先になっているのです。 もし枝のもとのほう、幹に近いところになっていれば枝葉をふくめた木全体の内側にリンゴがあるので
 The tree has many apples in it.
となったでしょう。 

 On を豆単語集でなく、大きな辞書でひくと、「表面に接触しているさまをあらわす単語」と正確な意味が書いてあります。 日本語にonにあたる言葉はありません。 ですからonが出てくる文章を訳すときは英語の文章から実際の場面を考えて、そのとき日本語でどう言うのか自分で考えなければならないのです。

 こういうのが英語の面白さなのであり、今の英語の教え方(豆単語集と語順変換で日本語に直す)は、生徒を翻訳機械、暗記機械にするものだからつまらないのではないでしょうか。
 英語の得意な人ならこういった例を集めて部分的な仮説実験授業ができるのではないでしょうか。 僕程度だと「こういう英文はある」という判断はかなりできるが、「こういう英文はない」といえるだけの語学力がないから、仮説実験授業にすると困る。