体育学の話

 最近のオリンピック陸上、水泳などの選手は自分ひとりで練習をするのではありません。 どの筋肉をどの位発達させたら良いか、どんなフォームが本人に適当かなどを医学者とコーチが考え、練習計画をつくって選手はその通りの練習をします。 そのような科学的練習の結果、50年前の水泳の男子世界記録を上回らないと女子の一流水泳選手ではないという事になってしまいました。 オリンピックは選手だけのたたかいでなく、科学者のたたかいでもあるのです。
 そのような科学を体育学といいます。 ここではみなさんに関係のありそうな体育学の話。

水を飲むとバテる?

 今の先生たちが中学生のころは、「水を飲むとバテル」という迷信メイシンを体育の先生など多数の先生が信じていました。 「水をできるだけ飲まないようにシロ」。 ですから、部活動の終わりのころや、山登りでは大変つらいことになっていました。 

 汗をかくと、その分水がからだから出て行きますから、水が不足で参ってしまう。 ですからマラソンでは選手が途中で水を飲む場所をつくっています。ただし中学生のみなさんの多くは、一度にたくさん飲んで必要以上になっている場合も多い。 よけいな水はオシッコに化けるだけですし、水を飲んだ分だけ体重も増えてほんの少しだけ体力を損する。 どの位なら良いかは自分で覚えるしかないので、「飲んで良いが、やたらに飲まない」という風に考えておいて下さい。

運動と休憩
 筋肉は使うと疲労します。 その疲労は時間に比例するのでなく、それ以上疲労が進み、しばらくすると急速にひどくなる。 つまり時間がたつと、ちょっと使っただけでひどくくたびれるようになる。 ですから休憩をする事になります。
 それなのに山登りの好きな人たちの中には「ゆっくり歩けば休憩は必要ない」という迷信を信じている人がいます。 林間学校を指導する先生の中にも信じている人がいるかも知れません。 「1時間に1回休むのが良い」という人も多い。
これらも迷信です。

 疲労は時間に比例せず急にひどくなるのですから、「細かく短く休む」ほうが合理的です。 ですから体育学理論で考えれば1時間に20分休むより、30分で10分休むほうが疲れが少なく、15分で5分休むともっと疲れが少ないという事になる。 念のため実験で確かめた学者もいますが、もちろん理屈どおりの結果でした。 ただし山歩きのようにずっと運動が続く場合でも休む回数があまり多いのはめんどうだし、部活動などの場合は激しい運動と細かい休みが繰り返しでは練習がうまくできない事が多いから、話は簡単でない。 それでも「最後にまとめて休憩するより、真ん中で休憩するほうが疲れにくい」と思って下さい。
 
危険なわざと休憩
 部活動の中には登山部(ワンゲル部)とか体操部のように危険のあるものがあります。 体操で難しい技をやるとか、滝のある谷・岩山を登る場合は事故の可能性がある。
 専門の知識のある先生の注意をキチンと守るのが一番大切ですが、生徒のほうでも、安全対策はあります。 それは前後に短い休憩をするという事です。

 運動が続くと、大量の酸素を筋肉が使ってしまうので、体は酸素が不足になってきます。 脳が考えるときも大量の酸素がいるので、もともと酸素が不足だと考えがいい加減になり不注意になるのです。 短い休憩でもその間に血液の中の酸素濃度がかなり回復するから、注意力が増す。 ですから直前に短い休憩を入れると失敗がすくなくなるのです。
 また難しい技を決めた後や、大きな岩を登ったあとは、そのとき酸素を大量に使うため、ひどい不注意になる事が多い。 ですから簡単なわざを失敗したり、ちょっと凸凹があるだけで転んだりして怪我となりやすい。 ですから30秒程度でも休憩するとこのようなつまらない事故はおこりにくくなります。 オレは疲れていないから平気だ…などと考えてはいけません。 学者は次のような調査をしています。

「高圧線の鉄塔に登る作業をする人は、1本毎に休憩させなければいけない。本人が平気だというから2本連続して登らせたという場合は転落事故が多い。」
 
瞬発力と持久力

 高校や大学では、陸上でも水泳でも短距離の選手と長距離の選手は違う練習をします。 100m走200m走のような短距離の選手は一度に1000mも2000mも走る練習などしません。 間に休憩を入れながら、100mや200mを何回も走るという練習をします。 どうしてでしょうか。

 筋肉には「力は強いが長続きは苦手」という筋肉もあれば、「力はいくらか弱いが長続きする」という筋肉もあります。 速く走るには足腰の筋力の強さが必要ですが、スピードを1割増すには2割力がよけい必要、つまり筋肉を2割よけいにつける事が必要です。
 カレイは浅い海の底にいて、エサが近くに来たら高速で飛びつく。 ですからカレイには瞬発力が必要です。 マグロはいつも水中を泳いでいて、泳ぎながらエサを捕まえます。 ですからマグロは持久力のある筋肉が必要なのです。 

 人間にもカレイの筋肉に似た筋肉と、マグロの筋肉に似た筋肉がある。
 短距離選手はカレイに似た筋肉のほうを鍛えなければならないし、長距離選手は主にマグロに似た筋肉のほうを鍛えなければならない。 中学ではあまりそういう事を問題にしませんが、それは将来どういうスポーツをするかわからないから両方の筋肉をバランスよく鍛えるためです。 両方の筋肉が同じくらい必要なスポーツもある。

 陸上短距離や幅跳びの名選手には黒人が多い。 その黒人はほとんど西アフリカ出身(先祖が西アフリカ)です。 西アフリカの黒人には生まれつき短距離向きの筋肉の割合が多いという人が多い(他の地方の人や他の人種の人に比べて短距離向
きの人が多い)からだと考えられています。
 昔の人間(新人)はアフリカにいました。 その一部・少数の人がアフリカを出て世界中に広がり、皮膚の色が薄くなって白色人種や黄色人種になりました。

 ですから、人間(新人)の大多数の人はアフリカに残り、その子孫は今でもアフリカにいる。 ですからアフリカの人は地方による違いが特別大きく、白色人種(コーカサス人種)や黄色人種(モンゴル人種)は地方による違いがアフリカ人種(黒人)より少ないと学者は言っています。 特別背の高い人の多い地方(男子で2m以上、女子で180cm以上は普通だという)もあれば、特別背の低い人の多い地方もある。 瞬発力が優れている人の多い地方もあるのです。
 理屈が難しいですか。 

 クラスで男女1人をクジでえらべば、その人が一番高いとか一番低いという可能性はほんどありません。 たいていは普通の背の人が選ばれるでしょう。
 それと同じ事です。大昔アフリカを出た人が少なかったので、その少ない人の中に特別背の高い人や特別低い人が入ってくる可能性はほとんどなかったのです。特別瞬発力の優れている人(そのかわり持久力は低くなる)もいなかったのです。