授業書「水と油」…・構造式と物性

 油と水、アルコールの混合実験からはじめて、構造式と物性との関係を 教える教材です。

構造式は中学生に理解容易
 構造式だって? 見ると頭が痛くなる」という人は少なくない。 しかしこの授業書は授業中弾圧が不要な程度には生徒に支持され、他授業書の場合に劣らない定着率があります。
 
 頭が痛くなるのは、高校時代、粒子概念さえ怪しいのに原子構造、八隅説、イオン結合、共有結合、構造式などを抽象的理論として一気呵成に詰め込まれ、苦しさに参った記憶のせいで条件反射ができているのではないでしょうか。 戦前には後記のような理由で現在より構造式が広く用られていましからこの授業書の後半に出るような話の多くを本で読んでいましが、幼稚園児にわかるものが中学生にわからないはずがない。 そう考えて授業にかけてみたらやはり大丈夫でした。 高校化学で一気に多数理論をつめこまれるつらさを軽減するためにも、構造式を分離して先に教える方法は合理的と考えられます。

 ごく簡単な分子の場合は分子模型のほうが直観的でわかりやすいが、ブドウトウやバクガトウ程度になれば、分子模型ではたくさんの原子がかたまっていて何がなんだかわからない…という事になりやすく、構造式のほうが直観的で分かりやすくなります。
 また抽象的な化学式分子式から入る指導要領式の方法はわかりにくいので、半分具体的な構造式から入り、分子式は構造式を簡略化したものという教え方のほうが心理学的には合理的と思われます。 
    
 構造式を教える教材をつくるときの問題点は、構造式が普通の分子と一部の巨大分子にしか使えず、食塩・酸化マグネシウムのようなイオン化合物や酸化鉄・硫化銅のような無機巨大分子に適用できない事で、文部省が中学で扱いを逃げる理由のひとつはこれだと思われます。  「化学式」としておけば、分子でもイオン化合物でも困らない…しかし「化学式」は実体ぬきの抽象的概念でイメージがわかないから、化学式から入る授業はつまらなくてわかりにくい授業になりやすい。

 戦前は、イオン化合物、分子、巨大分子などの区別がやっと始まったばかり(1930年代に専門家レベルではこれらの概念が確立したと考えられますが、日本の大学入試を見ると戦後50年代後半でもこれらの概念の怪しい大学教官がかなりいる事がわかる)という学問段階でしたから、まだ一般啓蒙書、初学者向けの極くやさしい本には構造式がほとんどの化合物に適用されていました。 だから構造式は化学の基礎として今より重視され、やさしい本にも構造式が採用されていたのです。 食塩の構造式とか、硫黄の結合手が6本といった誤りが多数書かれていましたがわかりやすい。  
  食塩はイオン化合物で分子はないから構造式は書けない
  硫黄の結合手が6では電子対6・・12個の電子となって八隅説に反する。硫酸やスルフォン基での硫黄は配位結合。


 ですから近似的な正しさを確保した上で構造式を初歩のうちに導入しようとすると、扱う化学物質を厳選する事が必要になってきます。 それでも一酸化炭素やスルフォン基などを扱いますから、これの場合は例外として切り抜けるしかなく、例外となるわけは高校で太陽系類似原子模型と八隅説、配位結合を学ぶとわかるという事で逃げます。

 この授業書の最大の問題点は分子模型を扱わない事です。分子模型から構造式に進めば、面白さ、定着率とも上昇するはずですが、方法論を考えられなかったので1971年の旧版からずっと分子模型なしです。 分子模型から入り、分子模型と構造式変換の練習を入れれば、いっそうわかりやすくなると考えられます。

 複雑な分子では構造式のほうが理解容易であり、そのため構造式は広く一般的に用いられていますが、ATPの高エネルギー結合説明とか、かなり多くの有機化学反応説明では分子模型の援けを借りないと理解困難(立体構造を構造式では示しにくい)ですから、両者を直観的に変換できる能力が高校・大学では重要になる。 
 立体構造は大学無機化学や実体的に教えた場合の高校無機化学でも重要ですから、生徒にとって煩雑にならないと思われる範囲でできるだけ立体構造を扱うようにしました。
 
 完成度はA-Bですが、指導要領準拠授業よりはるかに多くの理論を教えるので伝統的生活指導・指導要領準拠理科授業が半分以上という学年での授業容易さはCに近いBではないかと思われます。
 
水と油
 マジックインキでガラスのコップに何か書いてみましょう。
問題 次のものでガラスに書いたマジックインキを容易にふき取ることができる
でしょうか。
水            簡単にふき取る事ができる、できない
揮発油          簡単にふき取る事ができる、できない
問題 灯油では簡単にふき取る事ができる、できない。    
問題 サラダ油で簡単にふき取る事ができる、できない。 
 * この問題は2つとも多数の教師、生徒が間違えます。実験は鮮やかにきまり、できる、の正しい事がわかる。
質問 水とサラダ油はまじりますか?    
* 大人は正答するが、生徒はそうでない。 これは試験管を6本程度用意して希望者に実験させる。試験管を10秒以上振る者もいる。       
質問 水と灯油はまじりますか?
問題 灯油と揮発油はまじりますか?
問題 灯油とサラダ油はまじりますか?

  油には他にもいろいろありますが、全部の油がまじります。
 ですから、台所の換気扇の油よごれを取るのに、ベンジン(揮発油)やアルカリ入り洗剤でなく、扱いの楽な灯油を使う事ができます。 ボロきれに灯油をしませて、それで換気扇をふけば良い。 油汚れは、食用の油がフライパンで熱されて気体になったものが、液体の油にもどったものです。 食用の油は無色かうすい黄色ですが、ホコリがついているので黒っぽい汚れになります。 灯油はそのホコリだらけの油とまじり、油は灯油に溶けてしまうから、あとはホコリをボロでふき取る事になる。
 *実験では多数の試験管が油だらけになります。はじめから石鹸とブラシで洗うのは大変なので燃料用メタノールで振ってから洗う

 そして全部の油が水とまじらない。

と結合手
 水は飲んだり、モノを洗ったり、生活に必要なものですから液体の代表のような気がします。 しかし科学的に見ると水は大変変わった液体で、油の仲間は多数ある(食べる油だけでもたくさんの種類がある)のに水の仲間はほとんどありません。
 水の分子は酸素原子(O)1つと水素原子(H)2つからできていて、このようにつながっています。 
   質問があれば、アンモニアや弗化水素は仲間だがアンモニアについては後で扱う。弗化水素は高校大学でと答えてください。 これらは有極性で互いに配位結合し、そのため沸点が高くなっています。 アンモニウムイオンができるのも配位結合のためであり、弗化水素が塩化水素、臭化水素、沃化水素と異なり水に溶けたとき強酸にならない理由も配位結合のためです。

 普通はこう書く。 
 どうしてこのようにつながるか、というと酸素原子には2本の結合手(ケツゴウシュ 手ともいう)があり、水素原子には1本の結合手があり、それが握手しているからです。 こういう風に先生の両側に理科係りの人が並んで手をつなぎ、理科係りの人は片方の手をおろします。
 これで先生が酸素原子、理科係りは水素原子、3人合わせて水の分子です。

  結合手は電子という原子より小さい粒からできていますが、詳しいことは高校で習います。 ここではたいていの原子には手のようなものがあると思ってください。
  水の分子が見えたら、水を見たとき3つの玉がくっついた分子がごちゃごちゃ動き回っているのが見えるはずです。
水素原子はH.酸素原子はOという約束です。
 
  台所にきている都市ガスに多く入っているメタンガスは分子が炭素原子1つと水素原子4つからできています。 炭素原子の手は4本ですから4つの水素原子と握手します。炭素原子にはCをかく。
。 もし台所の都市ガスの分子が眼に見えたら5つの玉が゛くっついている分子が飛び回っているのが見えるでしょう。  メタンはおしりから出る気体にもはいっていますが、メタン分子に匂いはありません。 匂いのある分子は別の分子です。



 炭素はcarbonカーボンだからCとなる。 水素はHydrogenハイドロジェンだからH 酸素はoxygenオキシジェンだからOとなる。 近代の科学は主にヨーロッパで発達したのでヨーロッパの人たちに覚えやすいように印がきめられたのです
 ....野球はアメリカで発達したから英語が使われ、柔道では世界中で日本語が使われる・・・というのと同じです。

アンモニア分子は窒素原子1つと水素原子3つからできています。 窒素(Nytrogenナイトロジェン)は手が3本ですから
 アンモニアは気体ですが、水に良く溶ける・・・水1リットルに200リットル以上のアンモニアが溶けるので、普通は水に溶かしたもの・・・アンモニア水が理科室においてあります。



 次は二酸化炭素の分子です。 酸素は手が2本、炭素は4本です。 これで手があまらない。
                     
 2酸化炭素という名の意味がわかりますか? 2つの酸素と(1つの)炭素がいっしよになって化けたものという意味です。 炭素だけだと炭になり、酸素だけだと酸素ガスですが、二酸化炭素は別の気体です。
 つまりくっついたら、別のものになったので化けるという字が使ってあります。 化ける、という言葉は知っていますね、
 孫悟空がハエに化ける、という化けると同じで、別のものになる事です。


 一酸化炭素は1つの酸素が炭素とくっついて化けたものという意味です。 部屋の中で炭を燃やすとき空気の中の酸素が足りなくなると2つくっつくのでなく、1つしかくっつかない。 そうすると猛毒の一酸化炭素が出き、気分が悪くなったり、病院ゆき、悪くするとお墓ゆきになってしまいます。
 一酸化炭素は炭素が4本酸素が2本ですから、1つづつでは炭素の手があまるように見えます。 これは例外で、その例外になる理由は高等学校で習います。
      配位結合です。
 
次は怖い毒ガスで青酸の分子です。 毒物で有名な青酸カリや青酸ソーダを飲むとすぐ青酸に変わって人間がお墓ゆきになります。 青酸分子は水素原子1、炭素原子1、窒素原子1からできています。図に手を書き加えてみましょう。 
 




水素ガスは水素原子2つです。 手を書きましょう。   
   

 



酸素ガスは酸素原子2つですから






 窒素ガスは窒素原子2つです。 手を書いてみましょう。   Nの手は3本です。
   
    
    
     
     
  ですから、もし空気の分子が見えたら、2種類の2つ玉が飛び回っているのが見えるはずです。 
  ただし玉にOとかNが書いてあるわけではありません。 酸素のほうが窒素よりほんの少し重いだけです。
 
構造式
、お酒に入っているエタノールにある原子の手を書きましょう。 エタノールの分子が血の中にたくさん入ると人間は酔っ払うことになります。
  手を書いて下さい。自信のない人はまわりの人と相談して下さい。
    




 



  いちいちマルを書くのはめんどうなので、これからはマルを書かない事にしています。

     H H

    H-C-C-O-H

     H H

縦の結合手は書き加えて下さい。
  これで丸い炭素原子2つ、やはり丸い酸素原子1つ、丸い水素原子4つがくっついているエタノール分子だと思って下さい。
  このようなマルを書かないで、原子とその手を書いたものを構造式といいます。

  都市ガスのないところでは、かわりにボンベにつめたプロパンガスをつかっています。
    プロパンの分子は炭素原子3つと水素原子8つからできています。
   分子の絵とマルのない構造式を書きましょう。ただし炭素原子を3つ並べて書くのが普通なので、まず3つの炭素原子を横に並べて書いてください。
    自信のない人はまわりの人と相談して書くことにしましょう。

     H  H  H

  H - C - C - C - H  

     H  H  H

  縦の手は書いて下さい。

 エチレンという気体があります。 リンゴから出る気体ですが、出たエチレンをそのままにするとリンゴがすぐポカポカになってしまうので、リンゴを売る会社ではエチレンを吸い取ってリンゴが長もちするようにしています。
 エチレン分子は炭素原子Cが2つ水素原子4つからできています。
 構造式をかいてみましょう。
  やはり相談して書いてもよい事にしましょう。

 一番普通なのは真ん中のように書いたものですがどれでも良いのです。
これらを縦にした絵は普通でないが、間違いではありませんから、マルにして下さい。。




 3つの式(絵)やそれらを縦にしたものはみなそれぞれ違っているように見えます。 どうしてどれでも良いのでしょうか。

 それは、構造式も今までの絵も、立体である分子を平たい絵、式に直しているからで、その直し方が1通りではないからです。

 メタン分子は炭素原子1つ水素原子4つから出来ていますが、炭素原子が正四面体の真ん中にあるとすると、手は4つの頂点の方向に出ています。 先生に正四面体を見せてもらいましょう。4つの水素原子は頂点にある。
 ですから絵にかくと、メタン分子は正四面体で、図のような形なのです。 それを平らな四角、十字架のように書いてよろしいという事になっています。





 アンモニアは窒素原子1つと水素原子3つからて゜きています。 窒素原子の手は正四面体の3つの頂点のほうに伸びていて、3つの水素原子は4つの頂点のうちの3つの場所にあります。
 ですから絵でかけば、正四面体を半分にしたような形ですが、それを平らな絵、式にして良いという事になっています。 

 


ですから 構造式は左の絵を上から見た図になっています。 角度は90度や180度ではないが、構造式を書くとき水素―窒素―水素の角は90度や180度でよろしいという事になっています。 全部120度でも良いし、そのほうが本当の姿に近いが書くのが面倒という理由でそう書かないのが普通です。。




 水の分子は酸素原子1つと水素原子2つですが、実際の形は、正四面体の真ん中に酸素原子があり、4つの頂点のうちの1つに水素原子があります。 ですから水の分子の本当の形は、折れ曲がった形です。




水の構造式は H-O-Hで良いという事になっていますが
 、凝コって折れ線、「く」を横にした形に書く人も時にはいます。 



2酸化炭素分子の形は1直線です。
  
 工事のとき、高温を出すアセチレンバーナーが使われる事があります。 そのとき燃やすアセチレンの分子は炭素原子2つ水素原子2つです。 構造式を書いてみましょう。
 
  H - C - C - H


 三重結合、炭素―炭素の3本の手は書いて下さい。


気体、液体、固体と分子の大きさ

水とエタノールのほかはみな気体です。 水やエタノールはどうして液体なのでしょうか。
 水のほかの液体の分子の構造式を調べて見ましょう。


 揮発油の中にあるベンゼンです。 6角形の平らな分子です。


                                    H H        

             C C
         H C     C H
             C C

             H H
  



      縦の手は書いて下さい。
 やはりガソリンに入っているトルエンという液体です。 吸っていると脳の神経細胞がやられて頭がヘンになるので有名な毒です。 6角に枝がついた形の分子で


              H H        

             C C    H
         H C     C -C-H
             C C    H   

             H H

 縦の手は書いて下さい。

  大きな分子だと液体のようです。
 では固体の分子はもっと大きいのでしょうか。 ナフタリンとブドウトウは固体ですが・・・。

  ナフタリン              
     H   H
     C   C
 H C   C    C H   
   
 H C   C    C H
     C   C
     H   H

ナフタリンは6角が2つくっついた形で、平らな分子です。
    結合手は書いてください炭素同士の1つおき2重2重結合の位置はずれてもよい。

 ブドウトウ

     
 
 ブドウトウの酸素や水素がヘンな方向に出ているようですが、立体的にみればブドウトウ分子は炭素5つと酸素1つが六角形をしていて1つ枝がでているほか、、上と下に水素、または酸素と水素がついています。


 ブドウトウを先生にわけてもらいなめてみましょう。 甘いが砂糖とちがって、あっさりした甘さです。 ブドウトウはこの通りやはり大きな分子です。 ですから大体あてはまる規則
 「大きい分子は固体、 中くらいの分子は液体  小さい分子は気体
が考えられます。
  グループごとにブドウトウの入った包みを渡し、仲良くわけて味を見るようにいう。

水は小さい分子だが気体でない理由

 しかし水分子は小さいのに水は気体でなく液体ですから例外になる。
 その理由を科学者は次のように説明しています。

 水は正四面体の真ん中に大きい酸素原子があり、正四面体の4つの頂点のうち2つに小さい水素原子があります。
 水分子正四面体の空いている頂点に別の水分子の水素が、くっつきたがり、実際にくっついたり離れたりを繰り返している。 水分子同士、正四面体がくっついたりはなれたりを繰り返しているため、大きな分子と似た性質を示す。
 それが水だけ分子が小さいくせに液体であるという理由です。
   この規則には水の他にも少し例外があります。大学で学んで下さい。
  黙ってこっそり配位結合を導入した事になります。 1例で理論を導入するのはわかりにくいから、八隅説と配位結合の理論を扱わない。量子力学を避けるので極性の話もカット。  より正確に言えば、水分子に極性があlり、手つまり電子対は酸素のほうに偏り、酸素はマイナス、水素はプラスになっている。 プラスの水素と別の水分子のマイナスである酸素が近づき配位結合となる。 

 アンモニア分子でも頂点に1つあきがありますから、2つある水分子ほどではないがやはりくっついたりはなれたりをやり、小さい分子の割には沸点が高く、マイナス33度です。 北海道の旭川の冬の最低温度記録はマイナス41度ですが、それだと液体です。 ところがメタンは沸点イナス162度。     メタン分子には頂点の「あき」がなく、分子同士がくっつかないのです。
  
 
水とまじる分子。
 ではそのような特別な分子(水分子)の集まりである水はどうして油とまじらないのでしょうか。 水分子同士でくっつきあうとすれば、水分子だけ集まってしまうのが当然ではないでしょうか。
 油の分子は1つ1つが勝手に動いています。 ですから揮発油と灯油や食用油をまぜると、両方の分子が勝手に動き回りまじってしまうのです。 ですからどんな油でもまじります。

 運動場で大勢がダンスをしているが、手をつなぐ相手はすぐ変わる・・・それが水という液体だと思って下さい。 水分子はいつもまわりの水分子と手をつないだり離したりしながら動いているようなものです。 油は全員が誰とも手をつながず、一人づつ動いているようなものです。

 大多数の液体は水とまじりませんがお酒のアルコール(エタノール)はまじりま
す。 まじらないと酒にならない。 エタノールは
    H H
  H-C-C-O- H 
    H H

  縦の線は書いて下さい
 です。 O-Hという水と共通の部分があります。 ここが水と引き合うのでエタノール(酒のアルコール)は水とまじる。 実はエタノールの大きさの分子でも気体になるはずで、このOHの互いにくっつきたがる性質のおかげで液体なのです。 次の構造式のメタノール・・・アルコールランプで燃やす液体もそうです。

     H

   H-C-O-H

     H

   縦の線は書いて下さい。


 では次のアルコール類と水をまぜてみましょう。
 メタノール(燃料用)  
 プロパノール (注射の前の消毒用)

       H  H  H

    H- C- C- C -O-H

       H  H  H
  
     縦の線は書いて下さい。

 ブタノール(研究室で使う溶媒で匂いが大変悪い) 


       H  H  H  H

     H-C- C- C- C―O-H

       H  H  H  H

    縦の線は書いて下さい。

 ベンジルアルコール(香水、カラ-フィルム現像)
         H  H  

         C― C    H

   H  C         C- C-O-H

         C ―C    H 

         H  H

       縦と斜めの線は書いて下さい炭素6つは6角でベンゼンやトルエンと同じく1つおきに二重結合

 4種類のアルコールは皆透明で同じように見えますから、匂いをかいでください。
 メタノールはお酒のアルコールであるエタノールと同じ匂いです。
 プロパノールも保健室で匂いを嗅いだ事があるでしょう。
 ブタノールは悪臭ですから、注意して下さい。

 1種類づつ試験管3本を用意し、全員に匂いをかがせる。 匂いを調べなければ、ただの透明な液体でみな同じに見え、問題がつまらない。 
  ベンジルアルコールが思ったほど良いにおいでないという生徒には、香水はいろいろな匂いの物質をまぜると答える。 


予想 これらは水とまじるでしょうか。 お酒のエタノールは混じることがわかっているから実験しません。混じるからお酒ができるのです。
ア アルコール類はみな水とまじる
イ メタノールは混じるがベンジルアルコールはまじらない
ウ その他

   結果はメタノールとプロパノールはまじるが、ベンジルアルコールはほとんどまじら ない。 ブタノールは少しまじるが、まじらないとしても良い位です。

 ではグリセリン
  
       H  H  H  

    H―C -C -C -H

       O  O  O

      H  H  H  
 
    縦の線を書いて下さい。

はどうでしょう。 グリセリンの分子はブタノールより少し大きい。
ア 水とまじる
イ 水とまじらない
ウ 少し水とまじる
 ではエーテルはどうでしょう。

         H  H     H H
          
       H―C - C -O -C -C -H

          H  H     H H

縦の線を加えて下さい。

ア 水とまじる
イ 水とまじらない
ウ 少し水とまじる
  エーテルは最近まで、麻酔薬として使われましたから、匂いを嗅ぐのは3秒以内に  して下さい。突然ぶっ倒れたのでは大変です。 昔は「エーテル強盗」というのがありました。
   後ろから抱き付いて、エーテルをしませたハンカチで被害者の口を押さえ、被害者が ぶっ倒れたらオカネを頂くという手口です。

 水と仲良しのO Hという部分が分子の大きさのわりに多数あれば、水と混じりあうことになります。
問題 ナフタリンは水に溶けるでしょうか。
 固体の分子が水の分子と混じると「溶ける」という事になります。

  ナフタリン              
     H   H
     C   C
 H C   C    C H   
   
 H C   C    C H
     C   C
     H   H


問題 この分子は 固体ですか、液体ですか、気体ですか。
  またこの物質は水とまじる(または水によく溶ける)でしょうか。



これは砂糖分子です。 100グラムの水に100グラム以上の砂糖が溶ける。 OHという部分は水と仲良しで、CとHばかりのところは水と仲が悪い。

油に溶けるというのを分子で考える

問題 ナフタリンは灯油に溶けると思いますか?   溶ける、溶けない

 、液体である灯油の分子が勝手に動きまわり、ナフタリンの結晶にぶつかると、ナフタリンの分子がはねとばされ、ナフタリン分子がバラバラになって、灯油の分子と同じようにゴチャゴチャ動き回るようになるからです。

水に溶ける、溶けないというのを分子で考える

 水の場合は、水の分子にはねとばされたナフタリン分子が、動き回る水分子の仲間入りをしようとしても、「オレタチの中に入るナ(水と仲良しの部分、つまり水分子と引き合う部分がない)」とやられて、もどってしまうから溶けない。

 水と砂糖の場合は、動き回る水分子に跳ね飛ばされた砂糖分子は水分子の仲間入りをして、OHの部分で水分子とくっついたり離れたりを繰り返しながら、水分子といっしょに動き回るようになる。 水分子のダンスの仲間入りができる分子からできた固体は水に溶けるのです。 だから水に砂糖は溶ける。 液体の場合は混じることになる。 つまりお酒では水分子のダンスにエタノール分子も仲間入りし、手を水分子とつないだりはなれたりとなり、また仲間のエタノール分子とも手をつないだり、はなれたりしているのです。
* ここのあたりは適当なマンガがあるとわかりよいと思われる。美術が「2」だった僕には不可能だが…

問題 ベンジルアルコールは灯油とまじると思いますか?
問題 ブタノールは灯油とまじると思いますか?
   * 両方まじります。OHの部分が小さく、油に近い。

 石鹸とか洗剤というものがあります。 これらは大変細長いムカデかゲジゲジのような分子で、片方の先には水と仲良しの部分があり、片方にはない。 そうすると石鹸や洗剤の分子は水と仲良しの部分で水にくっつき、もう片方で油とまじろうとします。 これが油汚れを石鹸や洗剤で落とすという原理です。 汚れの分子を石鹸や洗剤の分子が取り巻き、水に溶けてゆく。 石鹸や洗剤はムカデ形分子の混合物です。
  これも絵があるほうが
  
構造式の世界1・・・細菌をだまして病気をなおす
 今ではもっとよく効く薬ができたのでほとんど使われませんが、40-50年前ころまでは大変良く使われた薬に「サルファ剤」があります。
 多数種類の細菌には猛毒だが人間にはほとんど毒作用がないという分子です。ではどうして細菌に猛毒かというと、多数の種類の細菌は人間の体の中にある下図のような分子が生きていくのに必要です。 細菌は水に溶けたその分子を吸い込んで栄養にする。 ところが人間の細胞はその分子がなくても生きられる。

 そこで学者たちは細菌の栄養のニセモノ分子をいろいろ作りました。 見ればわかるように「似ているがほんの少し違う」。 これを注射したり飲んだりすると、ホンモノが少ししかないのにニセモノは大量という理由で、たいていの細菌がニセモノを吸い込んでしまい、分裂して増える事ができなくなる…・という原理で薬になる。 人間にはほとんど害がないが多数の細菌には猛毒という物質なのです。 人間は頭が良いので、細菌をだます事ができる。

  細菌の栄養のホンモノ「パラアミノ安息香酸」           
  


  






 。

サルファ剤(科学者の作ったニセモノ)の1つ
   
          
 









Sは硫黄の原子です。 矢印は特別な手だと思ってください。 特別な手については高校で習います 
 矢印は配位結合です。 硫黄だけが電子を出す電子対ですから、普通の手と同一のものです


質問 この薬と一緒にホンモノを与えたら、どうなるとおもいますか?
 試験管の中での実験では、これらの薬が効かなくなる。 薬があってもホンモノが多ければ、ホンモノを吸い込む細菌が増えてしまうから、それらの細菌はどんどん増える。 だから細菌が間違えるために薬が効く事は確かだと考えられています。
 細菌をだますという薬のほかに、ガン細胞をだますという薬もあります。 

構造式の世界2・・・・巨大分子
 麦芽糖バクガトウは昔のアメの甘味です。 

  麦芽糖分子                 


 葡萄糖分子


 ブドウトウ分子が2つつながるとバクガトウ分子です。

 麦芽糖をたべると分子は人間の体の中で分解し2つのブドウトウ分子になる。  2つのブドウトウをつなぐとバクガトウですが、たくさんブドウトウがつながるとデンプン(澱粉)になる。 
 ごはん、パン、とうもろこし、じゃがいも、さつまいも…などの食べ物にはデンプンが入っています。 片栗粉は純粋なデンプンです。 片栗粉の粉1粒が1つの分子でブドウトウがたくさんつながっている。 粉1つぶは眼に見えるから、ものすごく大きい分子です。
 だいたい1,0000,0000,0000,0000個くらいのブドウトウがつながっている。

 口の中や腸の中で、デンプンは分解されバクガトウやブドウトウになる。 だからゴハンやパンを20秒ほど口の中にいれたままにしてかむと、甘くなる。 ウソだと思ったら、先生の許可を得ておべんとうのゴハンやパンを一口食べることにして20秒かんでみましょう。
 デンプンは目に見える分子ですが、このように特別大きい分子を巨大分子という。
 
 巨大分子は水に溶けない。 水に分子が溶けるには、小さい分子にわかれ、その分子が水分子と手をつないだりはなれたりする、水分子のダンスに参加して水の中をうごきまわる必要がある。 ジャガイモやサツマイモは葉で作ったブドウトウを水に溶かして地下に運びデンプンに変える。 生長をはじめる時は、デンプンをブドウトウに変えて水に溶かし、新芽に運ぶ。
 人間はデンプンをブドウトウに変えて(これが消化)、血の中に入れる。
 * デンプンをバクガトウやブドウトウまで分解しなくとも、いくらか小さい分子まで分解すれば水に溶けるようになります。溶性澱粉という。

構造式の世界3・・・・たんぱく質とアミノ酸
 アミノ酸という物質があります。 アミノ酸は、肉のスープとかカツオブシやコンブ、シイタケ、ニボシなどの煮汁に入っている。  またショウユや味噌汁の中にもある。 というよりショウユや味噌は塩とアミノ酸のかたまりといったほうがあたります。
 どんな味かわかりますか。 肉やカツオブシ、コンブ、シイタケ、ニボシなどの煮汁、味噌、ショウユにある味…甘い、辛い、塩辛い、酸っぱい、苦い…みんな違う。 「うまい」という味です。 
 アミノ酸には多数の種類がありますが、そのうち4種類の分子です。
  グリシン                    グルタミン酸



                                     トリプトファン  
           リジン


構造式を見ると、NにHが2つついた部分と CにOが2つHが1つついた部分がある。 この両方が隣にあるがアミノ酸です。
 この中でグルタミン酸というアミノ酸が工場で作られ、「味の素」という商品名になっています。 
 「旨い、旨味」という科学の言葉は「おいしい」とは違う。 砂糖が入って甘ければ何でも「おいしい」という人がいます。 コーヒーや紅茶だけでなく、料理にたくさん砂糖を入れる。 ゴハンに砂糖をかけて食べる人までいます。
 そういうのは、「旨い」のではない。 ダシなしの味噌汁はおいしくない。そのダシの味が「旨い」です。
   
 ただしグルタミン酸という1種類のアミノ酸だけ多いとくどい味になりかえってまずくなるので、使いすぎないようにして下さい。 勢いよく出すとしつこい味になる事が多い。
      
 アミノ酸が多数つながるとたんぱく質という巨大分子になる。 肉やカツオブシ、ニボシや豆、しいたけ、コンブなどのたんぱく質は煮ると一部が分解してアミノ酸になる。 そのアミノ酸の味が「旨い」であり、ダシの味です。 
 これらのたんぱく質の残りは胃腸の中でアミノ酸になります。 たんぱく質の消化です。
 人間の体(の細胞)ではアミノ酸をつないで人間のたんぱく質にする。 アミノ酸の種類と順序がたんぱく質の種類によって違うので、魚や卵や肉、豆などのたんぱく質を胃袋や腸でアミノ酸に分解し、人間の細胞の中で人間のたんぱく質になるよう並べなおし、つなぎなおすのです。

分子式
 構造式を書くのは面倒です。 それで簡単に書ける分子式が用いられます。
 分子式では原子の種類と数だけを書く。
  水はH2O 二酸化炭素は CO2 ナフタリンはC10H10 ブドウトウは C6H12O6  ただしC,H,N,Oの順が決まっているので、その順で書く。 ただしHとCは反対のこともある。
  この順で書く理由(HとCは反対のこともあるという理由を含めて)は大学で習います。
   
アンモニアが水に溶ける理由
 アンモニアは水と同じく正四面体の構造で、窒素が真ん中、4つの頂点の3つに水素があります。 そして水と同じ事をやる。 ですからアンモニアは気体ですが沸点は酸素、二酸化炭素、水素、窒素などに比べて高い…つまり液体になりやすいという事になります。 
  アンモニア分子は水分子と同じようなダンスをしますから水分子とアンモニア分子はよくまじる・・・つまり水にアンモニアはよく溶ける。   

 メタンも正四面体構造ですが、もう頂点にあきがないので、引っ張り合いをしません。 水分子のようなダンスもししないし、メタン分子同士の引力がありません。 ですから分子はバラバラになりやすく沸点が低い。 気体は液体と違い分子がバラバラというのを覚えていますか。 分子がバラバラになりやすければ、気体になりやすいという事であり、沸点が低いということになります。
   メタン分子同士の引力として量子力学的な弱い引力はありますが、この授業書のレベルでは無視して良いと思われます。
  

ダイヤモンドと石墨、炭
 デンプンやたんぱく質は巨大分子です。 分解するとデンプンは麦芽糖になり、ブドウトウになる。 たんぱく質はアミノ酸になる。
 しかし普通の人が知っている分子で一番大きいものは水晶やダイヤモンドです。これらは一つの結晶が1つの分子です。 全部の原子が手でつながっている。

 その結合は強力であり、デンプンやたんぱく質のように切れやすい部分がない。 ですから、これらは大変硬い。 水晶があったらナイフで傷をつける実験をしてみましょう。 キズがついたら大変? 心配無用。鉄より硬いからキズがつかない。逆に水晶のとがった角でナイフをこするとキズが鉄につく。

 水晶はシリコンと酸素という2種類の原子からできている分子ですが、ダイヤモンドは炭素からできている巨大分子です。 1個のダイヤは全体が1つの分子です。
昔ラボアジェという貴族の科学者がダイヤモンドを人々の目の前で燃やし、できるものが二酸化炭素である事を示したそうです。
 でも炭や石墨(黒鉛ともいう。鉛筆の4Bの芯はほとんど石墨)だって炭素からできています。 これらは黒くてやわらかいがダイヤモンドは透明で硬い。 どうしてそうなるのでしょうか。
 ベンゼンという揮発油の一種は下のような分子です。ナフタリンはその右。
 六角3つだとアントラセン(染料の原料)になる(1番右)。


 
 この六角を横にも上下にもつないでゆくと、蜂の巣のような形のCという平ったい分子になる。 ∞は無限大ムゲンダイと読み、物凄く大きい数をあらわす。 この分子は下敷きのようなすっぺらな分子で、その下敷き同士は手をつないでいないから、力を加えるとすべってしまう。 これが石墨と炭です。
 結晶が小さく普通の顕微鏡では結晶が見えないだけで結晶なのです。

 メタンガスは正四面体の分子です。 つまり炭素の手は4方向に立体的に出ている。 その水素をなくしてとなりの炭素を並べ全部炭素にする…つまり正四面体を敷き詰めたような巨大分子がダイヤモンドです。 立体的に全部の炭素が手をつないでいるから、大変硬い。 一番硬い物質です。 また固体の原子のブルブルがよほどひどくなってこの手が切れる程度にならないと液体にならないから、融点も大変高い。普通の分子は分子同士手でつながってはいないから、液体になりやすい(融点が低い)。 ですから水晶も融点が高い。

 同じく炭素からできているので、石墨をダイヤモンドに変えることができます。 しかし今の工場では100%変えることができず、黒いダイヤモンドになってしまう。 それでもガラス切りや、削岩機(岩を掘る機械)に使うには十分ですから人工のダイアモンドが使われています。 
  キレイなダイヤモンドを作る方法は発見されていますが、問題はどれだけ安くできるかです。 将来は安く美しいダイヤモンドができるだろうと予想されています。

  ルビーやサファイアも巨大分子ですが人工のほうが天然よりキレイなものができます。 天然のものには少しまじりものがあったり傷があったりするからです。 宝石鑑定人はそのまじりものや傷で天然(高価)か人工(より安い)かを見分けています。ダイアモンドもそういう時代になるでしょう。

その他の巨大分子
 硫化銅や酸化鉄(黒色)もCuS、Fe3∞O4∞(Cuは銅、Sは硫黄Feは鉄)という巨大分子ですから水に溶けない。 水中でバラバラにならないものは溶けない。
   
構造式の書けない物質
 食塩や酸化マグネシウムは分子でなくイオンという電気のある粒からできている。 それらは手で原子が結合するのでなく、+の粒と−の粒が静電気力で結合しているのだから、構造式は書けない。

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* 凝り性生徒に質問された場合に…・
 塩化銅や塩化鉄はイオン化合物で水に溶ける。その理由は次の通り。 水は分子ですが、手つまり共有電子の対は酸素側に偏り、酸素がマイナス、水素はプラスに帯電している。 銅イオンや鉄イオンを水分子が取り巻く(酸素はマイナスに帯電しているからイオン側、水素が外側)ため、金属イオンとマイナスイオンとの静電気力が弱まるから、水分子に衝突されたイオンははじき跳ばされ水中を動き始める。
 この時一部の水分子は金属イオンと配位結合でくっついてしまい錯イオンができる。美しい銅のイオンの色は錯イオンの色で、配位する水分子の数により塩化銅の緑(2分子が配位)や硫酸銅の青(4分子が配位、相手の硫酸イオンが大きいので銅イオンのまわりに4つの水分子が入り込める)になる。鉄や銅は遷移元素ですから、配位結合(配位共有結合)を作りやすい
 塩化物イオンでも同様だが、-1というイオンの作る電場が弱く、取り巻きの水分子の交代は激しく水分子のついた錯イオンを作らない 。 ナトリウムイオンも作る電場が弱く錯イオンができない。
 食塩はイオンが+1、-1で弱い静電気力だから、水分子があたると跳ね飛ばされて溶ける。 酸化マグネシウムは+2-2の静電気力が強すぎて溶けない。 ただし硫酸マグネシウムは硫酸イオンが大きくマグネシウムイオンが小さく、結晶を作るときマグネシウムイオンのまわりに水分子が入り錯イオンをつくるので静電気力が弱まり、水に溶ける。
 バリウムイオンは大きいので相手が硫酸でも水分子が入り込めないから硫酸バリウムは水に溶けない・・・+2と-2で静電気力が強く水分子がぶつかっても跳ね飛ばされない。