ストリートチルドレン芸術祭とのかかわりについて

  2005年2月21日(月)、愛知万博「愛・地球博」の瀬戸会場で展示する「ストリート
チルドレン」の作品を集積する場を、熱海市立小嵐中学校に設置する会議が開かれた。
 参加者 ワールドユースピースサミット平和大使 田中章義氏
          財団法人2005年日本博覧会協会事業企画部市民参加促進部長 鈴木直彦氏
          ストリートチルドレン芸術祭実行委員会 甲斐豊明氏 他3名
          熱海市立小嵐中学校長 中島洋一郎,教頭,生徒会担当教員 
          熱海市立小嵐中学校生徒会長,副会長2名

 田中章義氏の本校の生徒たちに対する思いを、生徒会役員に次のように話した。     
  愛地球博で、世界初となる「ストリートチルドレン芸術祭」を開催します。フィリピンから
ジャン・ピエールさんを招聘し、ルワンダ共和国をはじめ、世界中のストリートチルドレンた
ちの詩と絵を集めます。その絵の中から各界の12名の方々に選考していただき、選ばれた絵
をテラルネッサンスというNGOを通じてチャリティーカレンダー化し、その収益を世界の子
どもたちの支援にまわそうという計画があります。この子どもたちの絵の収集場所を打ち合わ
せした折、小嵐中学校にさせて頂くのはどうか提案しました。
 推薦理由として、@ ポール・コールマンさんを招聘したり、海外にも目を向けた素晴らし
い先生方がいらっしゃる。A192名の全校生徒さんは、自分たちが住む地域・家庭環境等を
考え合わせ、世界のストリートチルドレンたちの気持ちにも思いをはせてあげられるのではな
いかと思った。B生徒会長やUNEPの国際会議の日本代表に選ばれたKI君のような、これ
からも一緒に地球の未来のために尽力していきたい生徒を要していること。C余裕教室がある
とうかがったことなどを考慮して、提案しました。
 世界の子どもたちの絵の送付先が、小嵐中学となれば、自ずと世界からの目も注がれていく
と思います。ギャラリー、ホームページはこちらでつくります。集まった作品を中学生がデジ
カメで撮って送付することができれば、その中学生は全体の実行委員として名を連ねることも
可能だと思います。世界のストリートチルドレンの生の作品に、生徒たちに触れていただくこ
とも、未来への豊かな“心の財産”かと考えました。
 地球の未来に役立つ小嵐中学生となることを願いつつ。
  田中氏は、本校を訪問し、生徒たちの様子、学校の教育活動を参観し、生徒たちとの対話、IK
君との出会い等から、小嵐中に好感を持ってくれました。それなくしては、今、自らが行動してい
る世界的な活動のパートナーとして、本校生徒たちを指名してくれるとは考えられません。田中氏
の活動が、本校生徒の「くろたけ学習」豊かな学びになるのではと思います。
  「環境」というと自然環境に目がいきます。当然だと思います。しかし、環境をつくり維持して
いくのは人間です。人間そのものが環境です。人が生きることは環境が重要です。地域環境,社会
環境,家庭環境,学習環境,住環境,教室環境,自然環境等々、これら全てに共通することは、そ
こに人が生きているということです。
 本校の豊かな学び「くろたけ学習」は、森をテーマに環境教育を進めています。そして、緑の少
年団活動から、カナダ国際交流、エコ座談会につながり、田中氏との出会いがあり、このような提
案となってきました。生徒の教育へつなげていく支援者は、学校です。
 田中氏の提案は、本校の伝統的福祉実践校の活動と通じます。新たな活動ではなく、発展的なボ
ランティア活動でもあります。また、“豊かな学び”の具体的学習活動にもなります。更に潜在的
に含まれている国際理解教育にもなります。まさに統合された教育活動です。教師にとっても総合
的な学習の時間となります。
 KI君が田中氏に送った手紙は、生徒の素直な思いとして、教育活動に取り上げていかなくては
なりません。彼の思いを紹介します(一部抜粋)。                           
  僕は、小嵐中の生徒で実行していけることはないかと考えてみました。2年2組の学級通信
で、担任の杉山先生が「田中さんは“何かをしなくては”という気持ちを、実行に移せる数少
ない人なのだと思います。田中さんから小嵐中生に、種がまかれました。その種を育てて花を
咲かせたり実を結ばせたりするのは、みんな次第です。」と、書かれていました。
 小嵐中生徒会でも、さっそく行動を起こしてみたいと思います。今僕が思いつくことは、書
き損じはがきやテレホンカード、切手を集めることです。田中さんの本に「現地まで行くこと
はできなくても、個人でも思い立ったその日から動き出せる社会貢献活動がある」と、書いて
あったので、すぐに実行したいです。それから、福祉委員会や緑の活動委員会はもちろん、他
の委員会でもそれぞれテーマを決めて、環境問題に取り組んでいこうと思います。例えば、学
習委員会では、講演会の時に3年のKU君が質問した割りばしの問題など、疑問点を調べてい
くこともできると思います。小嵐の森に、みんながもっと親しめるような名前を募集してつけ
たりしたいです。N君がいる自然科学部にも、いろいろ協力してもらおうと考えています。こ
れから学校全体で意見を出し合いながら、取り組んでいくつもりなので、また報告します。そ
の時には、いろいろ教えてもらえたらうれしいです。
 僕たち2年生は、学校の裏にある森の木を一本ずつ自分たちの木にして、時々成長の様子な
どを観察しています。よかったら田中さんも一本、自分の木を持ちませんか。田中さんのプレ
ートを掛けさせてもらえたらいいなと思っています。そうしたら、また、森や僕たちに会いに
来てください。
  生徒会長の構想は、具体的で実現可能です。教師があれやこれや考えるより、もっと生徒たちは
現実を見つめて提案しているのかもしれません。この生徒の発想を我々教員が受け止めていくこと
です。田中提案のストリートチルドレン芸術祭のプロジェクトには、教員と協会の方のみでなく、
生徒会や環境に興味を持つ意欲的な生徒を入れていくことで、本校の生徒と教師の協働が実現する
のではないでしょうか。これから推進していく上で、会議は教職員のみでなく、生徒も参加させて
いきたいです。

「ストリートチルドレン芸術祭」合同会議の様子から

  「ストリートチルドレン芸術祭」について、スタッフの生徒に対する説明、生徒の態度です。こ
の会議に先立ち、私は生徒に「この会議は、生徒会役員も先生も万博のスタッフも、生徒も大人も
なく同じ立場で考えていきたい」と、伝えました。最初に2005年日本国際博覧会協会市民参加グル
ープ長鈴木直彦氏から、今回の博覧会のテーマ「自然の叡智(Nature's  Wisdom)」等についての説
明がありました。121ヶ国が参加し各国は、このテーマに忠実に取り組むことを話しました。また、
この博覧会は、市民が参加する博覧会という特色があると言うことで、社会や地域のために何かを
やりたい、中学生でも参加できることを願っている旨を述べました。
  次に田中氏は、小嵐中学校生徒会に取り組んで欲しい「ストリートチルドレン芸術祭」について
語りました。生徒たちは、話を一方的に聴くだけですが、次第に話の内容が身に迫ってきたのか、
自分の感性に電流が走ったのか、一層真剣な眼差しになり、田中氏やスタッフの目から離さず聴い
ていました。それに応えるかのように、田中氏は熱心に語りました。ストリートチルドレンが日本
の人口と同数程度、世界に存在していること、下の「将来自分が住みたい家」の絵などをとおし、
現状を伝えていきました。
  左の絵は、フィリピンの
ストリートチルドレンを一
時的に保護するNGO団体
「カンルンガン・サ・エル
  マ」で生活を送っている
15歳の男の子(Jayson君)
が描いたものです。この絵
のテーマは、「将来自分が
住みたい家」。多くの子ど
もたちが、田園風景に広が
る小さな家を描く中、
Jayson君だけがお母さんの
お腹の中の絵を描きました。
その理由は、「だって自分
が15年間生きてきた中で、
ここがいちばん安全な場所
だから……」だそうです。
  この絵を見た生徒たちは、強く心がうたれた様子でした。
一通りの説明がすみ、「生徒会でこの活動に取り組めますか」と尋ねると、「はい!やらせていただ
きます」と、力強い返事が返りました。この一言に、同席した大人たちは感激しました。この活動を
主体的に受け止めてくれたのです。そして、田中氏は、活動として次のような提案をしてくれました。
@  作品募集を行いその作品の集約・管理を小嵐中学校が行う。
A  集まった作品をデジカメに撮ったり、展示したり、ホームページに載せる。
B 小嵐の森の木に、ストリートチルドレンの名前を付けてつるしてもらう。
C 小嵐の森を世界の子どもたちを結ぶ森にしていく。
 など、生徒が(やるぞ!)と意欲を引き出すきっかけを作ってくれました。
  生徒会役員は、燃えています。その気持ちを小嵐中生に真剣に伝えていくと思います。

ストリートチルドレン芸術祭協力への経緯

 来年度の生徒会活動は、福祉実践校の伝統がさらに海外へと広がります。ストリートチルドレン芸
術祭への協力です。ここまでの経緯を簡単にまとめてみます。まず、緑の少年団カナダ国際交流の参
加からです。本校に派遣依頼が届き、参加者審査で書いた生徒の作文は、環境教育の未来を啓示する
ものでした。このことから、静岡新聞「元気ジャーナル」に本校が紹介され、静岡新聞主催の熱海・
伊東中学生環境会議で発表。そこから、代表としてN君が、「エコ座談会」参加。そこで、田中章義
氏と知り合い、連絡を取り合う中から、1月の「小嵐の森シンポジウム」に講師として来校し、生徒
たちの様子に共感を覚えた田中氏は、「ストリートチルドレン芸術祭」の企画を提案してくれました。
 まさに、生徒の素直な行動が学びの原点となっています。そして、やる気を起こしています。森の
活動を生かし、そこから広がる学びの活動の分野は、多方面にわたるかもしれません。しかし、増や
すことではなく、生徒会として取り組む事業を丁寧に、ゆとりを持って行うことです。教員は、その
ような支援の構想を描いて行きます。
 「ストリートチルドレン芸術祭」では、チャリティーカレンダーを作成します。それには、集まっ
た作品の中から12枚の絵を選考します。本校が、作品の集積・保管校であることから、選考委員の
一人として小嵐中学校の代表として私の名前があげらあれましたので、生徒が作品選考という活動に
取り組めることにもなっていきます。                                  
                          (以上 文責:熱海市立小嵐中学校長 中島洋一郎)