昼食座席

 次の定型的授業をする。
「明日から昼の食事があるので、その座席を決める。」
「君達の希望はどういう座席か」「本当の希望をいいなさい。」
---「どういう座席が良いか、適当か」という問いは絶対にしない。

  「自由座席、好きな者同士にすると心配があるという先生がいます。 何ですか?
「仲間はずれですね。 そういう人がでるとかわいそうです。」
「仲間はずれがでなければ自由座席で良いですか?
「ではこういう事にしましょう。 仲間はずれなしなら、自由に座席を動かして食事をする事にします。 ただし1人で食べている人がいてはいけない。 そういう人がいたら、出席番号座席で食事にします。 それでいいですか?

 クラスの大多数から数年間いじめられつづけている、典型的いじめられっ子 がいた4例でも親切生徒3-4人がその生徒を入れてくれた。 今まではその子 とつきあうと被害がわが身に及ぶから、親切生徒も知らん顔をしているのであり、今回は「自由座席のためだ」という「錦の御旗?」があるから、仲間に入れてくれるのである。 これだけでも大抵はいじめの程度が軽くなって、偏見はあるがあまり目につかない程度となり、教師がいじめっ子どもを叱るよりずっと効果があった。 力関係が変わったのである。 
 このように「汝生徒が契約を守れば教師は楽しい学校生活を保障する」という形で、生徒に支持されながら自主管理能力を育成する方法は1971年に今村、成見両氏に考案されたが、現在ではこの方法を「契約」と呼んでいる。 

理科授業座席

 荒れていなければたいてい採用していた次の方法にする。 荒れていれば当面は管理的座席のままだ。
 この話し合い、授業は6月としたい。 それまでは仮説実験授業だから生徒の騒動は(大荒れでなければ)問題にならず「面白い授業では騒がない」という状態が成立する。 以下の授業はそのような状態を前提にしている。筆者は特殊条件がない限り4月、5月に指導要領準拠授業をしない。 板倉聖宜氏の書いているように、教科書が終わったら仮説実験授業をするのでなく、仮説実験授業のほうを先にしたい。 生徒弾圧が必要な授業が先では生徒が本音を出しにくくなり、次のような定型的話し合いが困難になる。
 例外的条件とは、
2年担当教師が指導要領・教科書を半分しかやらなかったため、3年担当である筆者の受験対策が困難になったような場合。 筆者の教材(大部分は仮説実験授業)は指導要領・教科書の範囲をほとんどカバーしていて、しかも普通の授業書(仮説実験授業教材)より遥かに短時間ですむようにしてあり(当然面白さ・わかりやすさが低下するのだが)、受験用専門の授業をするベテラン教師の授業に比べて都入試得点が低くならないようになっているのだが、それでも1.5倍の内容だから苦しくなった。

 「理科室での座席はどういうのが良いと思いますか?」「本当の希望を言いなさい」
 この本当の希望というのがないと、生徒が教師に迎合して管理的座席を提案する事になりがちである。
 「自由座席だと問題になりやすいのは何でしょうか。」
「授業中うるさくなりやすい事ですね。 授業では静かにしているとつらいという人がいますし、特に教科書を使う授業ではそういう人も多くなります。」
「少しでも騒いだら皆の成績が下がるでしょうか。」
「では次のようにしたいが、どうでしょうか。 座席は皆さんの希望どおりとするが、授業中あまりうるさくならないように基準を決めます。」
1時間の授業で3回注意されてはいけない。 つまり先生は3回目になったら怒るという事です。 そういう人が1時間の間に3回出たら、当分自由座席でなく、今のように出席番号順に座ってもらいます。」
 だから2回目までは「○○君2回目!」と笑って注意し、生徒を叱らない。

「またおしゃべりしていて教科書にある実験をサボルというのも困ります。」
「ですから、1時間の間に3回注意される人は2人まで、また実験サボリのグループが出ないようにする、また実験セットは10しかありませんから、グループは10まで、こういう条件なら希望座席というのでいいですか? 」
 担任があれば、自分のクラスでグループ代表者会議を開き、原案を決めるのだが、担任がない場合は上記のように教師主導の授業で片付ける。
 こうすると騒ぐ生徒を叱らないから、こちらもつらさが軽減される。 「○○君。注意1!」と笑って言う事になり、「○○!! うるさい!! 」などと怒鳴る場面が消失する。 授業が苦しいから騒ぐのに、苦しがっている生徒をただ叱る教師は生徒との信頼関係が悪くて当然であろう。

      一般授業座席

 次の授業をしないと、他教師から苦情が出やすいので後半の実践ではたいてい採用した。 ただしあまり荒れているときは、別の方法が必要であり、後記。
 「授業中静かにしよう」と教師が先頭になって宣伝する常識的指導は結果がたいてい悪い。 指導要領準拠授業の大多数の場合は静かに聞く我慢が大変という生徒が多数出来てしまうが、彼らに苦しさの我慢を押し付けるだけでははみだしが出現して当然である。 多くの独裁国でゲリラやテロ団体が出現するようなものであろう。

 大多数の授業が苦痛という生徒と勉強家・まじめ生徒との妥協できる線「全員が我慢可能な線は何か」という討論から出発すべきであろう。
 このためには、原案を作るとき、「授業態度が悪い」とされる生徒たちの代表も参加していなければならない。 だから班長会でなく、遊びグループ代表者会議で原案を決めなければならない。 またいつも騒ぐという生徒の本音が出るように、視点の明確な教師発言が必要である。

  「座席はどう決めたら良いでしょうか。 生徒の希望どおりで良いという人もいるでしょう。 でもそうすると授業中うるさくなって皆の成績が下がったり、仲間はずれが出たり、集団掃除サボリが出るという意見があります。 反対につまらない授業の時完全に静かにしているのはつらいから、ちょっと位は友達としゃべりたいという生徒だっています。
 皆さんはどれが良いと思いますか。

1. 授業中あまりうるさくなって成績がさがったり、仲間はずれがでたり集団掃除サボリがないようにすれば希望座席で良い。
2. クジが良い。
3. あまりうるさくならないような座席案つまり全席指定案をここで決める
4. その他」
クジが良いというのはたった一回の経験しかない。 授業中に女子の足を棒などでひっかける男子問題児がいたので、女子がみなその男子をいやがった結果そうなった。
「授業中あまりうるさくならない方法としては、次のどれが良いでしょうか。 ただし数字はみなさんの意見で変えて良いことにします。
1. 1時間の授業中に3回注意されたという人が3人いてはいけない。そのような授業が1日のうちに2時間あると「不合格の日」とする。 そのような日が1週間に2日あれば、自由座席の権利なしとして次の1週は全員が出席簿順の座席とする。
2. 1時間の授業中に3回注意された人は「要注意」とする.。 1週間にそういう日が2日あれば、その人は1週間の特別座席(先生の前)とする。
3. その他」
 たいていは12で決まる。 例外は1回だけで、それは「特別うるさい者を投票で決め、当選した者は1週間の指定席」というものであった。
 あとは生徒に原案を決めさせる。

 クラス会では学級委員か、学級議長が原案を説明する。そのとき結論だけでなく上記の指導書内容が教師の提案で、そのうち生徒代表が良いとしたのが何であるという風になっていなければならない。 以下は例。
「生徒希望どおりの座席では、授業中うるさくなって皆の成績が下がったり、仲間はずれが出たり、掃除集団サボリなどの心配があると先生が言いました。 そこでそうした悪い事が起こらないという約束をして生徒希望どおりという案にしました。」

 「生徒希望という原案は次のとおりです。……・・ただし次のような条件に違反すると1週間自由座席の権利がなくなり出席簿順の座席になります。 条件は(うるさくなる限度)、仲間はずれ、集団掃除サボリです。 それでいいですか?  これでその通り決まり不満は出ない。 リーダー会議が問題児を含む生徒全体の意向を反映する会だからである。 これで楽しさ確保のためにルールを守ることになる。

  授業中騒動の制限をつけない場合はどうなるか。
 個性を育成する進路指導(別項)を併用した年度の話である。たいてい以下のようになった。
 真っ先に授業中騒動がひどくなり、5-6月は多数の授業で「学年一うるさい」クラスとなる。 他の自由座席クラスより騒動のひどい理由は次のとおりであろう。一連の指導で生徒の団結の心理的障害である「勉強家…勉強嫌い」の対立や、「部活熱心…帰宅部」の対立がほとんどなくなり、一方では「親教師…反教師」の対立もなくなってしまうから、生徒全体が仲良くなりやすい。 遊びグループの数は急速に減り、5-6月で男子2-3女子3-4かそれ以下になってしまう。 だから特別お喋りがひどくなるのだと考えられる。
 ただし授業の上手な教師の授業では騒動がなく、発言の量・質とも抜群となる。 原因は仲良しだから発言しやすい事と、自分に誇り・自信を持つ生徒が多いことであろう。
 9-10月になると、1例をのぞき授業中騒動のリーダー統制が自然成立した…つまらない授業でも最初は静かである。 しかしそろそろ大衆生徒が限界と見るとリーダーたちが冗談とかヤジなどの合図を出す。 そうすると一斉に騒ぎモグラタタキのようになる。 しかしここはテストに出そうなところだとリーダーたちが判断すると「静かにしよう」となる。 そうすると騒動は止む。 そこで、一番授業態度が悪いのにテスト平均得点は一番高いというクラスになる。 「楽しく騒いで、適当に点数も取りたい」という線で生徒全体の統一が成立したのであろう。 だから職員室で叱られている生徒の中には常に学級委員や生活委員などリーダーがいるという教師の常識とはずれた現象も例外なくおきる。 3学期の指導要領準拠授業の成績は学年一が普通なので、成績という点での問題はない。 しかし一部教師からの苦情が出て例外なく担任が困る。
 また今村氏の対策もある。別記した。 話が下手で対人関係の苦手な筆者は採用しなかったが、一般にはそのほうが良いかも知れない。

大荒れの場合その他

 「タバコ生徒15-6人が毎日廊下を練り歩く」「2年時一部の授業では授業中のトランプを規制できない」「最低級成績の生徒が例年の3倍」という大荒れの3学年にいきなり配属された場合は、このような授業をしていない。問題児勢力が大変強いので、授業中騒動を制限する約束などできる状態でない。 反教師的、反社会的生徒の支持者が多数派であるから、グループ代表者会議も成立しない。

 その場合はどうしたか。 要するに「生徒大多数が支持できて、しかもそのルールを守ると生徒が前進」なら良いわけである。
 学年主任になった中田利郎氏(組合地区協議長を何回かつとめ、のちに東久留米市市会議員)は最初の学年教師会で演説した。 「この学年はワルがロビンフッドになっている。 オレは高校に行くから教師に公然と反抗はできないが、ワル諸君よくぞやってくれたという生徒が多数派になっている。 だから連中はやりたい放題となる。政策で生徒多数を味方にすれば、ワル諸君も暴れなくなる。」
 現在でも大多数の教師に聞かせたい名演説であろう。

 この学年は遠足の班行動反対、体罰賛成…後に校長から東久留米市市長選挙に自民公明推薦で立候補した人物が1,2年で学年主任という超保守派多数の学年であった。学年主任以下超保守派は生徒が3年になる時に全員転出。

 教室座席では「班の男子片割れ、女子片割れは好きな者同士で良い。 ただしその組み合わせは班長会で決める」という原案とした。 この案は班長会で決められた。そして男子ワル組には女子リーダー、女子ワル組には男子リーダーがつく。 それまでの管理主義座席よりは支持される一方、ワルが全員一緒では授業が成立しない事がワルを支持している生徒たちにもわかっているから、この案が大多数の賛成となる。 理想を押し付けると失敗が多い。大多数の生徒の賛成のもと大多数の生徒がいくらかでも前進すれようにすれば、理想に近づく。

 また班長会というのは、革命期のソ連のソヴェト会議と同じく先進的分子の会であり、大荒れの場合や、横暴な餓鬼大将がクラスを支配している場合に合理的なものであろう。 平時には先進国化したソ連のソヴェト会議と同じく、民意を反映しない形式的存在になりやすく、スターリン独裁の補完物ならぬ教師独裁の補完物になりやすいと考えられる。   

訓話や討論より先に生活を変える指導 
無競争集団主義の進路指導
トランプ指導
さまざまな条件での無競争集団主義実践例
素晴らしき生徒列伝